「おはよ~シカマル。今日もいい天気だね~」
空を見上げると、雲一つ無いいい空が広がって。
ピーヒョロロと空を鳥が気持ちよさそうに飛んでいる。
アカデミーをさぼりたくなる気持ちがつい募る。
「おはよう、チョウジ。ほんとに気持ちいいな。」
挨拶をしながら歩いてきたのは、俺の幼馴染でもある秋道チョウジ。
秋道家は俺の家…奈良家と同じように名家で名が知られている。
昨日火影との話の中で出てきた道連れにしようとしている第1号だ。
こいつは気のいいやつで俺がぼっとしていても邪魔をせず、一緒にボーとしてくれる。
(その間どころかずっとスナックを片手に漠々と(授業中でさえ)間食している案外肝の据わったやつだ。)
こいつなら俺の頼みも引き受けてくれるだろう。もう一人は難しそうだが…
「ねぇねぇ。今日の宿題してきた?僕してないんだよねー」
気の小さいようで、案外神経が図太い。チョウジはシカマルも例の如くしてないだろうと高を括っていた。
実際そんなものをする暇も無かった、時間があってもしてないと思うけど。
「してねぇよ。ところで…頼みたいことがあるんだけど。」
シカマルは親にも友達にも頼み事なんて全くといっていいほどしない。
そのシカマルが真剣な顔をし、聞いてほしいと、頼み事をしてきたのだ。
何かあったのかと思わない方が難しいだろう。
「どうしたの?珍しいね。どんなこと?」
チョウジは内心驚いていたのだが、笑ったままシカマルに聞いた。
でもシカマルが頼み事なんてよほどの事だ、何があったのかと心配していた。
「実は…」
シカマルは歩きながら、昨日火影にあってっどういうことになったかをポツリポツリと話し始めた。
第2章 「旅は道連れ、世は情け」
「はぁ。それは大変だったね。でもそれはシカマルが悪いよ~!あんなことしてたらいずれバレルってわかってたことじゃない。」
チョウジの言葉にシカマルは苦笑いをした。もっともな意見である。実際その場面を何度も海という忍びに見られたからこんなことになったのだから。
「…そのとおりです。返す言葉もございません。で、俺は1週間後から解部に行くことになったんだけど…おまえに助っ人みたいなことをしてほしいんだよね。」
「それが頼みごと?でも僕シカマルみたいに頭よくないし、強くも無いよ?」
シカマルが頼みにくそうにしていた理由もわかったし、何があったかもわかった。シカマルが困ってるなら助けてあげたいと思うけど、僕にはシカマルが思うように役に立つとはどうしても思えない。
「そんなことないぜ!お前は自分で思ってるよりずっと強ぇって!それに俺一人だと突っ走りそうだからストッパーとして横にいてくれよ。」
シカマルは僕の不安を察し励まそうとしてくれたことが僕には嬉しかった。それに…確かにシカマルを止められるのは僕しかいなそうだしね。
「ありがとう。シカマルの立派なストッパーになれるようにがんばるよ。ところでイノはどうするの?仲間はずれにしたら後で怖いと思うよ?」
「おぅ。あいつも誘うつもりだが…親父さんをどうしようかと。ばれたらすげー怖いしな。少し迷ってるところだ。」
シカマルはイノの父親の親馬鹿っぷりを思い出したのか、ブルリと背筋に震えが走った。
イノも俺たちと同じ旧家で山中家の生まれだ。家は花屋と薬草作りを兼任している。それゆえ山中家に嫌われると、薬草を配給してもらいにくくなるのだ。山中家の栽培している植物は毒から薬まで幅広い。それをもらえなくなると任務に支障が出ることもあるから恐ろしいことこの上ない。特に娘の悪口を一言でも言ったら必ず親父さんの耳に入り、その後、死ぬほど酷い目にあうらしい。と言う噂は里ですでに噂にならないほど知られていた。 俺もイノの家に遊びに行く度に無言のプレッシャーを感じるので、その娘が危険な目にあうかもしれない、と知られればどんな目にあうかわかったものじゃない。今日の朝の授業はくのいちとは別の授業だから、イノと顔を合わせるのは昼休みになるだろう。だが親父さんに内緒には…できないだろうな。
学校についた俺たちはいつものように授業を受けていた。俺はいつもの如く爆睡。そしてチョウジは俺の隣で爆食。そんな俺らを担任の先生が怒らないはずも無く、チョークがびしばしと飛んできた。よけるのもめんどくさいのか、シカマルはチョークに当たっても気にすることなく寝ていた。ほんとにマイペースな男である。その後も本能の導くままに昼休みまでずっとこんな調子だった。彼らを知らないやつが見れば、なんて問題児だと憤慨したに違いない。
しかし彼は寝つつも、今後の展開について思う部分がありそれをずっと考えていた。
今回のように海という暗部に指摘されずとも、俺の異質さはいずれ、火影に知られることになっただろう。
そしてあのときの勢いでイノとチョウジも巻き込んでしまおうと思い、火影に推薦したのだが、これが己の勝手であるということはシカマルにはいやと言うほどわかっていた。
確かに二人は俺が誘えば、自分からしたい!と言うだろう。
しかしそれは彼らが、忍びの大変さを全く知らないからであり、命がかかっているという実感を感じていないからだ。
それでも、一人で行くには俺はあまりにも幼く、弱い。
結局俺のエゴで二人を巻き込んでしまったのに、それを止めるだけのやる気が俺にはないから、現状を維持することに、そう、俺は決めてしまう。
キーンコーン、カーンコーン。
チャイムの音が昼休みの始まりを告げる。その音と共に女子も教室に帰ってきて、弁当を広げだした。イノは…ほかの女子の友達と弁当を食べようとしていた。
「シカマル。早く呼んだ方がいいんじゃないかな?」
チョウジはシカマルの方を揺らしながら、イノのほうを見つめていた。
「わかったよ。ちっめんどくせ~」
シカマルはダルさ全開で立ち上がり、イノに声をかけた。
「イノ~ちょっと話しがあんだけど…今日だけ昼飯つきあわね~?」
いきなり声をかけられたイノは驚いてシカマルの方へ振り返った。シカマルとチョウジとイノは古くからの幼馴染だが、アカデミーでチョウジはともかくシカマルはイノに積極的に話しかけるということはなかった。もちろんほかの女の子にも同じではあったが。
シカマルの方にも話しかけなかったもちろん理由はあった。イノに話しかけると周辺の男子からの視線が厳しくなるのだ。イノはくのいちの中でも成績はずば抜けてよく、男子の上位者とと比べても劣るものではなかった。それにイノは明るくやや暴走することもあったが、オシャレに気を遣っていて、くのいちの中で男子に人気があったからだ。しかし父親のことはアカデミーでも有名だったので、表立って其れを口に出すものはいなかった。だがイノに告白した人は誰であっても父親に呼び出しを食らったらしい。それでイノに話しかけたことで、イノに好意を持っている男子に嫉妬されたのだった。
「いいけど…珍しいわね?じゃあ屋上で食べましょ?」
そう言うと、イノは一緒に食べようとしていた女の子たちにひやかされながらも、弁当を持って教室を出た。シカマルとチョウジも周りの視線を無視し、さっさと昼飯の用意をして教室を後にした。教室を出たところで、3人は合流した。それから屋上に行って弁当を広げながら話をしていた。
「ねぇところで話ってなんなの?」
イノはシカマルにワクワク顔で質問した。シカマルの誘いはいつも興味を引かれることばかりだ。それに女の子だからと遠慮せずに、私も一緒に誘ってくれるのだ。そのことがイノにとってとっても嬉しい事だった。他の女の子の友達は幼馴染だった男の子が女の子だからって段々と遊ばなくなったと話していた。だからシカマルから話があると聞いて、面白そう!という期待感と3人で何かをできるという嬉しい気持ちでイノはいっぱいだった。
「お前を誘うと親父さんが怖いんだけど、誘わねーと後で怖いからなぁ。」
「あったりまえよ~!!私を仲間はずれにしたら怖いわよ?パパには私から言っておくから!」
「たのむ。実は…俺暗号解析部で働くことになったんだよ。」
「え~~!!それってどういうこと!?あんたがすごいからってまだアカデミー生でしょ!?」
イノは驚き、キーンと響く声で叫んだ。その声にシカマルは思わず耳を押さえる。チョウジは気にせず豪華な弁当を食べていた。重箱5段の。
「うるせーよ。だから火影につかまっちゃって…今人材がいないんだとよ。」
「なるほどねー。確かにあんたならその辺の中忍よりよっぽど強いし、頭だってすごくいいから適任かも。でもほんとにやるつもりなの?アカデミーでもめんどくさがって成績悪いあんたが?」
「そうだよねー。でも断れないみたいだよ。」
とチョウジがイノに言った。
「ってか火影本人から言われたし、親の手前断れねーよ。ほぼ命令だぜ。」
「…確かに。で話ってそのこと?」
少し神妙な顔でイノは聞いた。
「あぁ。でお前たちも手伝ってくれねーかな、と思って。」
「えっ!?ほんと!?でもそれっていいの?」
「いいんじゃない?実力だって中忍レベルくらいはあるだろ?それに俺だってその方がやりやすいし。」
シカマルの言葉にイノはぱぁっと顔が輝いた。それはチョウジも同じである。2人はシカマルのことを自分たちより強いと認めていた。しかしそのシカマルに実力があると認められたことが何より嬉しかったのだ。
「私はいいわよ?面白そうだし。」
「僕もいいよ~。できるだけ頑張るね!」
シカマルは大丈夫だと思ってはいたが、笑って了承してくれた二人に心から感謝したい気持ちになった。ふたりともこれが危険なことだということはわかっていただろう。断られてもおかしくはなかった。もちろんシカマルは2人を絶対引き入れると授業中に迷いながらも決めていたので、断った場合は火影に言って入れてもらうように頼むつもりだった。そうならなかった安堵と2人の友情を嬉しく思っていた。しかしそれと平行して2人の実力、そして危険を少なくするためにどうすればよいか、2人の実力で大丈夫かを計算していた。
「ありがと。俺は来週から解部に行くことになってるけど、2人は何とか親を説得してもらっていいか?…特にイノは親父さんに俺の名前を出さないでくれ。やっぱり夜出ることも増えるだろうから、親に内緒は難しいしな。それに俺の親父はもう知ってるし。」
「わかってるって!でもパパ私のことになると頑固だからなぁ。一応シカマルの名前出さないように頑張るけど…」
「僕のほうは多分大丈夫だよ。結構好きにさせてくれるし」
「頼むよ。それと、お前らには修行してもらうからな?」
シカマルハにやりと意味ありげに笑った。この笑い方を見て2人は悪寒を感じた。こういう風に笑うときには何か悪いことを考えていることが多かったからだ。それは自分たちに降りかかることは少なかったが、見ているだけでも怒らせないようにしようと誓ったものである。
「し、修行って?どんな?」
「僕たち大丈夫なんでしょ?」
「解部だぞ?中忍レベルじゃ危ないに決まってだろ?せめて上忍の弱いやつくらいは負かせるようにならないと…じゃないとイノの親父さんだって絶対OKするわけないだろう。」
「でも~シカマルの修行ってきつい…あ~もうわかったわよ!上忍くらい倒せるようになって見せるわよ!」
イノはやけになってこぶしを握り締めながら、決意をあらわにした。その姿は普通の男よりはるかに男らしかった。男の子だけでなく女の子の中でも人気のあるのはこういう部分があるからだろう。
「わかったよ~僕もするよ。でも修行の後おごってよね!」
「…ほどほどならな。まぁ俺は来週から行くけど、2人は上忍レベルの実力がついてからだな。」
イノは屋上の空を見つめながら、ようし!頑張るぞ~!!と声を張り上げた。
その傍らでシカマルとチョウジは顔を見合わせ苦笑した。
とりあえず来週からシカマルは解部にいくことになる。
はてさてどうなることやら…
旅の道連れはできたものの、これから先何が起こるか…それは誰にもわからない。
そのころ火影の執務室では…
「火影様。シカマルはどうでしたか?」
「うむ。なかなかよさそうな眼をしておった。おぬしの薦めるだけはあったぞ」
暗がりの中机のそばにある光で浮かびあっがた、火影と一人の忍び。
「でしょう?だから言ったじゃないですか。」
火影の目前であるにもかかわらず、その忍びはその場にいるものの心を落ち着かせるような雰囲気を漂わせ、穏やかな笑みをたたえ続けていた。
「そうはいってもまだ子供じゃから、危険な仕事につかせることをどうかとは思っておる。じゃがそう言っておられる状況じゃないんでのぅ。ところで海よ…」
どうやらこの忍びはシカマルを推薦した海<カイ>のようだ。シカクの話にあったように気配の消し方、ちょっとした体の動きは眼を見張るものがある。
火影はしばらく口をつぐみ、黙り込んだ。何かを考え込みながら、
「いや、なんでもないぞ。ところであやつはどうしておる?一年前にお前に任せっきりだったがところでどうなったのかときにしておったのじゃが…」
「あ、あいつですか?元気でやってますよ。もって生まれた才能なのか、努力のおかげなのでしょうか。もうどこに出しても大丈夫だと思います。下地はあったので、結構簡単でしたよ。」
「そうかそうか。それは安心じゃ。ではこれから実践に出してもよいのじゃな。」
火影は年甲斐も無く、何かを思い浮かべながらニヤニヤと笑っている。はたから見れば、スケベジジィである。
海は顔を少し引きつらせていた。
「そ、そうですねー。いきなり一人は危ないですけど。Aランクぐらいなら大丈夫だと思いますよ。俺も付き添いますしね。」
「そうか。頼むぞ。して、あやつはもう家に帰っておるのか?」
「…いえ。そこに。」
海は窓のほうにチラッと視線を向けた。火影はバッと驚いて窓を見た。
気配をまったく感じなかったので、誰かが窓にいるなどかんがえてもいなかった。そのことは火影を責めるべきかもしれないが、この場に海がいることで火影は安心しており、そのことで少し油断を招いていた。よって気づかなかったのだ。
「どうも。」
窓をくぐって入ってきたのは、20前後の黒装束をまとった青年だった。髪は黒く、上から下まで黒で統一されているので薄暗い部屋の中でははっきりと見えない。ただ、青い瞳が強い印象を与えていた。
「ナルトか。久しぶりじゃのぅ。何か困ったことは無かったかのぅ。」
「ないよ、そんなの。てか顔壊れすぎなんだけど…」
ナルトの出現で火影の顔はデレデレにとけかかっていた。嬉しさからなのか、何なのかはわからないのだが、爺馬鹿もほどほどにしてほしいものだ。
「う、うむ!すまぬ。それより変化を解かんかのぅ?もう遅いから心配は無用じゃ。」
そうは言われたが、不安のあったナルトは海の方へ視線を向けた。
海はうなずき、ナルトに目で大丈夫だと伝えた。
その様子に火影が若干の嫉妬をしたのはいうまでもないことだ。
はぁ、とため息をつき、ナルトは印を組んだ。目にも留まらぬ速さだった。
印が完成すると同時に、ナルトの体は煙で包まれ、その煙の中から子供が出てきた。
木の葉の里では珍しいあでやかな金髪、そして変化していたときと同じ青い瞳だった。顔には両頬に3本の傷が刻まれていた。
だがその目つきは鋭く、その瞳の奥には悲しさと抑えることのできないどうしようもなさが、ゆらゆらと映し出されていた。
「おぉ、大きくなったのぅ。アカデミーの方はどうなんじゃ?留年させて悪かったのぅ。しかし適任の護衛がいなっくてのぅ。」
「まったくだ。やっと卒業できると思ったのに…まぁ担任が海だから我慢できるんだけど。」
納得したように話してはいるが、やや不満そうである。
話し方は大人びているのに、子供っぽくて。
つい海の口元に笑みが浮かぶ。
「アカデミーは大変だろうけど…俺がいるんだしいいだろ?」
「うむ。ところでアカデミーのほうで親しいものはできたか?」
その火影の発言を聞き、ナルトはさらに額にしわを寄せた。
「……」
「あの…火影様。その話は…「海!とめなくていいよ。」
と海が言おうとするのをナルトは止め
「そんなやついるわけないじゃん。みんな親の言うこと聞く馬鹿なやつばっかりだよ。」
と火影に笑いながら話した。
その顔を火影は悲しそうに見、目を伏せる。
この子には何の罪も無いのに、わしには何もできんわ。でも…もしかしたらあやつになら…
「そういうでない。周りを見てみよ。もしかしたら近くにいるかもしれんぞ?」
「いるわけないよ。じゃあ俺そろそろ帰るね。じゃあ暗部の話しよろしく。」
言い終わったと同時に瞬身の術で部屋から瞬く間に消えた。
「……」
「……」
「シカマルと仲良くなるといいですね。」
「そうじゃな。」
ナルトの行く末を。
そして二人の行く末を案じていた。
二つの運命が絡み合い、これからどうなることか。
それは火影様にも誰にもわからない。
願わくば幸せを。
序章 「火影」
漆黒の闇のように黒く長い髪。
それは俺を縛るよう鎖のようだという人もいる。
しかし俺は黒という色を嫌いではない。
何もかもを覆い隠し、包み込んでくれる。
そして俺が黒から連想するものといえば影。
影は俺にとって存在を確立するための証。
そして影は俺の強さを示すものでもある。
今夜は月も雲に隠れ、ただ闇が森を覆う。
木の葉の里は隠れ里の中でも1,2を争う大きな里である。
しかし何年か前に木の葉を九尾という神と同等の力を持った妖狐に襲われ、里は大打撃を受けた。
九尾は4代目火影によってある赤ん坊の腹に封印され、木の葉は危機を脱することとなる。
4代目火影の命を代償として。
その後3代目火影が現役に戻り、里は息を吹き返すことになる。
そして時が立ち、里では血継限界ー代々血筋を持って受け継ぐ術-を持つ旧家や名家が復興を遂げつつあった。
その旧家の中には奈良家という…影を操る術を代々受け継ぐ家系が在った。
しかし主に山で飼っていた鹿の角を煎じた薬の方が知られており、あまり名を知られることはなかった。
その家の長を奈良シカクという。
奈良家は専ら薬の優秀さが表に出ており、忍びとしての力量を問われることはあまりなかったのだ。
だがシカクは他の旧家と下忍時代に班が一緒で3人のチームワークは最強と有名で、それぞれが実力者と呼ばれ、一世を風靡したという。
しかしシカクは結婚した後は暗部を引退し、のんびりと上忍としてラブラブな夫婦暮らしを満喫していた。
他の2人も似たようなもので、やはり類は友を呼んだのであろう。
しかし。
「はぁ。なんで火影様に呼ばれたんだろうか。書類に不備な点でもあったのかな?」
とシカクは火影の待つ執務室の前で立ち止まっていた。
暗部を除隊してから火影のいる執務室に呼ばれることはあまりない。
だが今日は任務の報告をしに行くと、執務室に行くようにと言われた。
このように一介の忍びが執務室に呼ばれることはまず無く、何かあったのかと考えるのは普通のことである。
しかしシカクは考えても思い当たることが無い。
ゆえにどんどん気が重くなってゆくのだ。
何かとんでもない難問を突きつけられるのではないかと…
トントン、と執務室のドアをたたき
「奈良シカクただいま参りました。」
というと火影から入室の許可が出たので、ドアを開けた。
「今日はどうのような用件でぇぇえ!!な、なんでおまえがここに…!!?」
ドアを静かに閉め、前を向くと見知った顔がいて、思わず声を荒げた。
今日任務に出る前に会ったばかりである。
「シ、シカマルゥ!!??」
そうそこにいたのはわが愛しの妻との間にできた最愛の子、奈良シカマルであった。
現在シカマルはアカデミーに通っており、忍びになるための技術を学んでいる最中…のはずだ。
火影の前であるにもかかわらず、驚きのあまり大きな声で呼んでしまう。
シカクが驚き、声に出してしまうのも無理はない。
火影は里では最高権力者であり、アカデミーに通うような子供が関わりを持てるような存在ではないのだから。
それが普通の子供であれば…
だがシカマルは普通の子供と少し違ったところがあった。
自分の興味の出たことは知ろうと努力し、わかるまで探し続ける…というところがある。
そしてどこか冷めた所があり、大人びたところがあった。
だがどんなに変わったところがあっても俺たちの子供であり、差別することなく愛情いっぱいで育てたつもりだ。
その愛情の度が超え、度々うざがられた記憶はあるが…。
だからここにいたことに驚きはしたものの、何か火影にしたのだろうかと考え、少し焦っていた。
何せ知識への探求欲はすごいものがあり、そのためにどんな犠牲をも辞さないようなところがあるのだ。
まぁ家族を巻き込むことは無いのだが、知らないところでは何をしているのかわからない。
そのくせアカデミーでは赤点を取ってきて、ドベ争いをしていると聞いている。
忍びとして自分の力を隠す点は褒めてやりたい所だが、いかんせん度が過ぎる。
ここにいる理由を知りたいが、面倒ごとになりそうな予感がひしひしと感じられて。しかしわが子を見捨てて逃げるわけにもいかず、とりあえず火影の出方を待つことにした。
「久しぶりじゃの、シカクよ。最近任務の方は順調にかたづけておるようじゃの。」
と世間話がシカマルのことを横に置いたように続く。
火影はなかなか本音を話そうとしないので、仕方なくこちらから切り出すことにした。
「は、ありがとうございます。ところで、なぜここに私の愚息がいるのでしょうか。」
シカクが切り出すのを待っていた、とばかりに火影は事の顛末を語った。
「ほほ。それはのぅ。里の方を視察した帰りに変化した見知らぬ忍びを見つけてのぅ。しかもその忍びの変化の術のチャクラの練り方には一部の無駄も無く素晴らしいもので、なぜ変化をしているのか気になってここに招待をしたのじゃよ。それで解除の術をちょっとかけてみたら、子供だったんでのう。驚いて親御さんにわけを聞こうかと思ったのじゃ。」
「は。そうでしたか。息子はアカデミーに通っておりますので基本的な術は習っておりますので、修練のために変化していたのではないかと思いますが。」
火影の発言にシカマルを見ると、シカマルは居心地悪そうに頭をかき顔を背けた。
ったくこのヤロウ、やっぱり火影の目に留まるほどの実力を持っていたのか。
それならそれで、火影の目の届かないところでやってくれ、と願うシカク。
この願いもむなしく、この後シカマルと一緒に面倒ごとが舞い込む未来が待っているのだが。
せっかく家庭で平和を満喫するために暗部を引退したシカク、だが苦労は始まったばかりである。