その少年は眠気に身を任せ、太陽の光を浴びて暖かくなっていたシーツへと体を預けた。
すうすう、と。
ほどなくして、寝息をかきだした。
この少年の名を奈良シカマル。
眠りと平穏をこよなく愛する、自称イケてない派だ。
アカデミーでの成績は芳しいものではなかったので、この男に期待をかける教師は皆無といっていいほどだろう。
しかしつい先日一部の、といっても数人の間で評価を覆すような出来事が起こった。
その少年の父親や、上忍にしてみれば、自分がしたい、してあげたい、と思っていたことを。
ごく自然に、何も考えずにやりのけてしまったのだ。
その出来事は少年は孤独を背負った少年へ驚きと安堵を与え、
青年には焦りと悔しさを、そして父親へは息子への賞賛を。
それぞれが何かを思い、考えた。
そして影響を与えた人物はといえば。
次の日目を覚ましその時のことを思い出した途端、頭を抱える羽目になったという。
親父にもらった酒が利いたのか、徹夜続きだったのが聞いたのか。
昨夜はいつになく睡魔に襲われていた。
だから言わなくてもいいことまで口走ってしまったような気が…。
ナルトに……あんな説教じみたことをいう気はなかったというのに。
あいつが受けた傷の深さなんて、どう考えたって俺にはわからないだろうから。
たまたま情報を知る立場にいたから俺が気づいただけで。
チョウジやキバが同じ立場にいれば、同じように考え、行動しただろう。
それに。
口にしてしまえば、ナルトのことを知るものへの仲間入りを意味する。
その仲間の中には…あの、カカシもいるのだ。
弧葉へのカカシの執着心の強さ、の噂はいくつもあり、とどまる事がなかったから。
かかわれば面倒くさくなることはわかりきっていた。
昨日も無理やり着いてきたというし。
本当に、厄介なやつに目をつけられてしまった。
だが。
幸い班も違うし、意識しなければ会うことはないだろう。
と楽観視しておく。というかしたい。
明日も任務はないし、今日から明日まで解部に泊り込みになるだろうな、と。
いつものお泊りセットを持って、家を出る。
親父は昨日寝るのが遅かったらしく、まだ布団の中だ。
お袋に遅くなる、といって家を出た。
その時は。
またいつもの一日が始まった、と思っていた。
・・・
・・・・・・
正直、行くんじゃなかった、と後悔しています。
眠気~の次の日解部に行く、という話です。
最後に少しだけ犬塚ハナが出てきます。
医療班だったけど、今だけ手伝いで解部に属しています。
(解部ってイメージでくの一ってハナだけだったので)
三話くらいで終わるといいな~。またまた見切り発車です。
「おはよーございまーす。」
「あ!おはよー!いつも来てもらってごめんね!」
「おはよー!今日も来てくれたんだ!この前も助かったよ!ありがとう!」
「あ、いいところにきてくれた!ここがわからなかったんだよねー。」
暗号解析部、通称解部と呼ばれるその部署には任務に関係する難解な暗号や巻物など様々なものが集まってくる部署である。
暗号なんてめったなことがなければ、任務に関係しないだろう、なんて考える人がいたらそれはとんでもない勘違いだ。
解くだけならば、難易度は高いにしても数はそこそこだろう。
しかし仕事は解くことだけではないのだ。
暗号を作ることも仕事のひとつである。
任務にあわせて、難易度を設定し作らなければならないのだから。
ただ暗号を組むだけよりも数十倍も難易度は高い。
だからこの部署で働く人間は通常よりもはるかに頭がいい人間が選抜される。
その部署の人間から頼りにされているということは…計り知れないぐらいに、頭がいいということになる。
「それにしても、何で変化しなきゃならないんですか?皆さん俺の正体知ってるのに。」
「私たちは知ってても、解部に子供が出入りしているなんて知られたら問題になるかもしれないでしょ?」
「へぇ、子供っすか。その子供に頼ってるのはどこの誰でしょうねぇ。」
少し不機嫌そうに眉間にしわを寄せた。
その様子にザワッと周りに動揺が走る。
せっかくきてくれたのに、機嫌を損ねて帰られでもしたら…と。
「あ、ご、ごめんねー!そんなつもりじゃなかったのよ!」
余計なことを言うな!という視線を一身に感じたくの一は焦って謝りだした。
何度も頭を下げだしたくの一に驚き、慌てて「冗談ですから」といって頭を上げてもらう。
困ったように笑うその姿にその部屋にいたくの一の半数は胸を打ち抜かれたとか。
本当の姿を知っていても、である。
現在の姿は長身に黒髪を後ろで束ねてゆるく縛っている。
元の姿を大人にしたような印象があり、シカマルを知るものが見ればわかる程度の変化である。
だからだろうか。
将来有望なエリートとして見ているのかもしれない。
少なくとも、解部の年頃の男が涙を飲むほどにはくの一から誘われているようだ。
最も本人は年上のお姉さんに人気があるなどとは思っておらず、弟がほしいのかな、という風にしかとられていないようだ。
「じゃあこれと…あそこの書類頼めるかな? 君が来てくれると誰も解けなかった難しい暗号を解いてくれるから助かってるよ。」
「そんなことないっすよ。それに暗号解くの楽しいんで。じゃあこの机借りますね。」
机に座り、シカマルは暗号を解きだした。
非常に真剣なまなざしに見とれて、手を止めるくの一もいたようで。
「あの、今シカマル君が渡された暗号って、誰も解けなくて参ってた暗号じゃないですか?」
ポーと頬を染めながら、新人らしきくの一は傍にいた先輩のくの一に質問した。
「あら、知らなかったの?あぁ、あなた確か医療班から移ってきたばかりだったわよね。医療班の人達には内緒で頼むわ。シカマル君が前回来てくれたのって結構前だったから知らないのも当然だわ。あの子いつもみんなが手を焼いてる暗号を解いて行ってくれるのよ。」
「は、はい。わかりました。それにしてもすごいですね!それに…そんなに前からこちらに来てるんですか??」
「二年くらいかしら、確かアカデミー生のころからだったと思うわよ。」
「そんなに早くから…本当にすごいですね。でもそんなにすごい子ならうわさになってると思うんですけど…。」
「そこは…ほら!噂になっちゃうと手伝いに来てくれなくなりそうでしょ?他の部署と取り合いになりそうだし…だから内緒なのよ。」
その考えには同感、かもしれない。
それほどに優秀であれば、どの部署も競って、勧誘しあうだろうから。
私だって、医療班にいたところに頭脳をかわれて解部に来たけれど。
正直、断っておけばよかった、と思わない日は一度もない。
医療忍術の修行も一段落ついたところだったので、経験にもなるからいいか、と思って移ってきて。
想像以上にきつく、仕事の量が半端なく多くて、驚きと同時に後悔したのはついこないだのこと。
体を動かすことが好きな私には正直なところ、ここの仕事はあってない。
異動届を出したい、と思っていたところに。
弟の友達が来て、手伝っているのを見て。
驚いて、言葉をかけることができなかった。
シカマル君のことは一応話には聞いていたけど。
聞くのと見るのは違いますね、実際。
「教えていただいてありがとうございました。じゃあ仕事に戻りますね。」
「えぇ。私も仕事に戻るわ。がんばってね!ハナ。」
「はい!がんばりますね!」
二人は自分の席へと戻り、割り当てられていた仕事へと戻った。
ハナにとってしなければならない仕事はいつもと同じなのだけど、その日だけは違うように感じたのだった。