「こんにーちは!シカマル君いますか~?」
なんて不安をかき消すように大声で挨拶した。
他の大人と同じように軽蔑された目で見られるかもしれないけど。
あいつを育てた人だから、隠れたりしたくなかった。
正面から堂々と。
例え怒鳴られても、あいつのことに関してうそはつきたくない。
なんて馬鹿なこと言ってるのはわかってるけど。
「あら?シカマルのお友達?ごめんなさいね?今シカマル寝てるのよ。今起こしてくるから、少し待ってって。」
部屋の奥から出てきたのは綺麗な女の人。
普通の対応をされて、ナルトは戸惑って言葉を失った。
こんな普通の会話をしてくれる大人なんていなかったから。
そう言い終ったら、女の人は2階へ続く階段を登っていく。
それと交互に奥のほうから、昨日見かけた父親らしき人がのそのそと頭をかきながら出てきた。
「お!昨日の餓鬼じゃねーか。今日はどうしたんだ?」
「し、シカマルを誘いにきたんだってば。」
「ほ~そうか。そういや話してたなぁ。あいつはこの時間ならいつも寝てるぞ。」
シカマルの部屋があるであろう方向を見上げながら、苦笑する親父。
「あいつは俺に似ず、寝るのが超好きだからなぁ。」
「らしいってば。学校でもよく寝てたし。」
ぷっ。
二人で笑ってしまった。
笑いながらも。
頭の中が疑問でいっぱいになる。
「…どうして俺のこと何にも言わないんだってば?」
「…俺はお前が悪いなんて思っちゃいねぇ。そんなこと思う奴はただの八つ当たりしてるだけだ。それをわかっていて助けることをしない俺は他の奴等と同罪だけどな。」
すまない、と頭を下げ、シカクは不甲斐無さそうに顔をゆがめた。
「そうだってばね。でもそれを自覚するのはとても難しいことだってば。」
「あぁそうだ。だがそれは弱い奴のすることだ。それに俺はお前を差別しなかった息子のことを誇らしく思ってるぞ。」
そう言いながら、シカクは笑った。
とてもいい笑顔で。満足そうに。
先ほどの苦笑とは違い、その笑顔は俺の特別な人と同じ笑顔だったけど。
どこか違う印象を受ける笑顔だった。
「それに…いやこれは今言うべきじゃないかもなぁ。」
頭をポンポンとたたきながら、シカマルの親父は立ち上がった。
「じゃぁそろそろ来ると思うから。またな!今度遊びに来いよ。」
「うん。ありがとう。また来るってば!」
奥の方に歩いていく後姿を見ながら、先ほどのシカクの笑顔を思い出す。
シカマルの笑顔とどう違うのかなと考えて。
シカマルの笑顔を思い浮かべると…胸がぎゅっと苦しくなる。
胸がいっぱいになって、あったかい気持ちになる。
でもその笑顔が他の誰かに向けられている場面を想像してしまうと、胸に何かが突き刺さったかのように痛みを伴ってうずく。まるで胸を打ちぬかれたかのように。
だから、ほんの少しだけ…ありえないことだけど、他の誰よりも長く俺にその笑顔を向けてほしい。
そう願ってしまう、少しの間だけでも。
「すまん、待たせた。」
笑顔を向けて歩いてくる君の姿が、とても嬉しい。