序章 「火影」
漆黒の闇のように黒く長い髪。
それは俺を縛るよう鎖のようだという人もいる。
しかし俺は黒という色を嫌いではない。
何もかもを覆い隠し、包み込んでくれる。
そして俺が黒から連想するものといえば影。
影は俺にとって存在を確立するための証。
そして影は俺の強さを示すものでもある。
今夜は月も雲に隠れ、ただ闇が森を覆う。
木の葉の里は隠れ里の中でも1,2を争う大きな里である。
しかし何年か前に木の葉を九尾という神と同等の力を持った妖狐に襲われ、里は大打撃を受けた。
九尾は4代目火影によってある赤ん坊の腹に封印され、木の葉は危機を脱することとなる。
4代目火影の命を代償として。
その後3代目火影が現役に戻り、里は息を吹き返すことになる。
そして時が立ち、里では血継限界ー代々血筋を持って受け継ぐ術-を持つ旧家や名家が復興を遂げつつあった。
その旧家の中には奈良家という…影を操る術を代々受け継ぐ家系が在った。
しかし主に山で飼っていた鹿の角を煎じた薬の方が知られており、あまり名を知られることはなかった。
その家の長を奈良シカクという。
奈良家は専ら薬の優秀さが表に出ており、忍びとしての力量を問われることはあまりなかったのだ。
だがシカクは他の旧家と下忍時代に班が一緒で3人のチームワークは最強と有名で、それぞれが実力者と呼ばれ、一世を風靡したという。
しかしシカクは結婚した後は暗部を引退し、のんびりと上忍としてラブラブな夫婦暮らしを満喫していた。
他の2人も似たようなもので、やはり類は友を呼んだのであろう。
しかし。
「はぁ。なんで火影様に呼ばれたんだろうか。書類に不備な点でもあったのかな?」
とシカクは火影の待つ執務室の前で立ち止まっていた。
暗部を除隊してから火影のいる執務室に呼ばれることはあまりない。
だが今日は任務の報告をしに行くと、執務室に行くようにと言われた。
このように一介の忍びが執務室に呼ばれることはまず無く、何かあったのかと考えるのは普通のことである。
しかしシカクは考えても思い当たることが無い。
ゆえにどんどん気が重くなってゆくのだ。
何かとんでもない難問を突きつけられるのではないかと…
トントン、と執務室のドアをたたき
「奈良シカクただいま参りました。」
というと火影から入室の許可が出たので、ドアを開けた。
「今日はどうのような用件でぇぇえ!!な、なんでおまえがここに…!!?」
ドアを静かに閉め、前を向くと見知った顔がいて、思わず声を荒げた。
今日任務に出る前に会ったばかりである。
「シ、シカマルゥ!!??」
そうそこにいたのはわが愛しの妻との間にできた最愛の子、奈良シカマルであった。
現在シカマルはアカデミーに通っており、忍びになるための技術を学んでいる最中…のはずだ。
火影の前であるにもかかわらず、驚きのあまり大きな声で呼んでしまう。
シカクが驚き、声に出してしまうのも無理はない。
火影は里では最高権力者であり、アカデミーに通うような子供が関わりを持てるような存在ではないのだから。
それが普通の子供であれば…
だがシカマルは普通の子供と少し違ったところがあった。
自分の興味の出たことは知ろうと努力し、わかるまで探し続ける…というところがある。
そしてどこか冷めた所があり、大人びたところがあった。
だがどんなに変わったところがあっても俺たちの子供であり、差別することなく愛情いっぱいで育てたつもりだ。
その愛情の度が超え、度々うざがられた記憶はあるが…。
だからここにいたことに驚きはしたものの、何か火影にしたのだろうかと考え、少し焦っていた。
何せ知識への探求欲はすごいものがあり、そのためにどんな犠牲をも辞さないようなところがあるのだ。
まぁ家族を巻き込むことは無いのだが、知らないところでは何をしているのかわからない。
そのくせアカデミーでは赤点を取ってきて、ドベ争いをしていると聞いている。
忍びとして自分の力を隠す点は褒めてやりたい所だが、いかんせん度が過ぎる。
ここにいる理由を知りたいが、面倒ごとになりそうな予感がひしひしと感じられて。しかしわが子を見捨てて逃げるわけにもいかず、とりあえず火影の出方を待つことにした。
「久しぶりじゃの、シカクよ。最近任務の方は順調にかたづけておるようじゃの。」
と世間話がシカマルのことを横に置いたように続く。
火影はなかなか本音を話そうとしないので、仕方なくこちらから切り出すことにした。
「は、ありがとうございます。ところで、なぜここに私の愚息がいるのでしょうか。」
シカクが切り出すのを待っていた、とばかりに火影は事の顛末を語った。
「ほほ。それはのぅ。里の方を視察した帰りに変化した見知らぬ忍びを見つけてのぅ。しかもその忍びの変化の術のチャクラの練り方には一部の無駄も無く素晴らしいもので、なぜ変化をしているのか気になってここに招待をしたのじゃよ。それで解除の術をちょっとかけてみたら、子供だったんでのう。驚いて親御さんにわけを聞こうかと思ったのじゃ。」
「は。そうでしたか。息子はアカデミーに通っておりますので基本的な術は習っておりますので、修練のために変化していたのではないかと思いますが。」
火影の発言にシカマルを見ると、シカマルは居心地悪そうに頭をかき顔を背けた。
ったくこのヤロウ、やっぱり火影の目に留まるほどの実力を持っていたのか。
それならそれで、火影の目の届かないところでやってくれ、と願うシカク。
この願いもむなしく、この後シカマルと一緒に面倒ごとが舞い込む未来が待っているのだが。
せっかく家庭で平和を満喫するために暗部を引退したシカク、だが苦労は始まったばかりである。