この痛み、胸に秘め
ほろほろと。
胸がぎゅぅっと痛くなる。
あの人のことを考えると痛くて痛くて。
まるで心の中で雨が吹き荒れているようだ。
あの人は俺を選ばなかったけれど。
そのことを責めたことなんて一度もない。
笑って、おめでとうございますと。
そういえた俺を自分でほめてあげたい反面、どうしようもない無力感に襲われた。
それでも引く手数多のあの人は、旦那がいても前と変わらず噂は回る。
旦那を唯一と決めてくれたらいいのに。
そうしたら、俺もまだ諦めがついた。
本人から聞いたわけじゃないけれど。
回り、回ってその噂は、俺のところへ。
限界は近い。
これから俺はどうしたいんだろう。
どうすればいいんだろう。
それでも俺は副長の戌。
命令があれば、なんでもする。
感情を殺して、表情を抑えて。
たとえ恋敵のためであっても、
副長を悲しませるような事態には絶対にしない。
「あれ~ジミィくんじゃない?どうしたのこんなところで。」
「あれっ旦那じゃないですか。こんばんは。」
万事屋の旦那を見つけたのは、町のはずれの狭い道で。
両側から刀を持った男たちに挟まれているところだった。
何をしたのだろうか。
敵方の男たちはものすごい形相で銀時に暴言を吐いている。
「実はねぇ、コンビニに甘いもの買いに出たんだけど、からまれちゃって。すぐ帰るつもりだったから刀持ってこなかったんだよね。」
「へぇそうなんですか。大変ですねぇ。」
敵を間に挟んだまま、二人の会話は続く。
二人が平然と刀を振りかざした男たちを無視したからかなんなのか、突然怒りだした。
そして銀時と、山崎のほうに向かって刀を向けた。
「ごめんねぇ。巻き込んじゃって。」
「本当ですよ!俺今日非番なのに。」
と男たちの相手をしつつも会話は続く。
キーンと高く響く音をさせながら、振り上げられた刀を自分の刀で受け止めた。
力で押されては勝てないことを身をもって知っていたので、早々に刀を離す。
そして次の瞬間に山崎は男の首を刀で突き刺していた。
銀時はその姿に一瞬眼を奪われる。
戦えば俺のほうが強いだろう。
山崎の上司でもある土方や沖田も、1対1で戦えば山崎が負けると思う。
しかし小柄な体で刀を振り回す姿は、神とも死神とも見まがう神々しさだ。
ざっしゅ。
最後の一人に山崎が止めを刺した。
地には倒された男たちの屍と、その体から流れ出す赤い血がべっとりとついていた。
いくら町から離れたところとはいえ、これはまずいんじゃないのだろうかと考えていると、山崎がどこからともなくホースを持ってきて辺りを流し始めた。
「いやぁ銀さん一人だったら間違いなくやられてたよ!ほんとにありがとう。」
旦那は俺に大げさなくらい礼を言うと共に頭を下げた。
俺があんたを助けたのはあんたのためじゃない。
あんたがいなくなったらあの人が悲しむだろうから。
「いいですよ。それより、暇なら副長のところに行ってあげてくださいよ。最近全然あってないでしょ?」
「うーん、行きたいのは山々なんだけど、銀さんもいろいろ忙しくてねーそれに多串くんもいろいろ噂聞いてるしさぁ。」
そう旦那にとっても土方さんが唯一ではなく、他にも相手がいた。
何で相思相愛なのに、浮気をするんだろう。
何度考えても答えは出ない。
「…なんで二人とも浮気するんですか?唯一の人がいればそれでいいと思いますけどねぇ。」
「なんでかな。最初はそれでよかったんだけどねぇ。ジミー君はそういう相手いるの?」
ギュッと痛みを訴える心を無視して、俺は答えた。
「俺は…いませんねぇ。いるとすれば、新撰組…くらいかなぁ。」
はは、と山崎は淋しそうに笑った。
心に浮かぶのはあの人だけど。
この思いを伝えることなんてないだろう。
俺はそれでいいのだ。
痛む胸はそう繰り返し自分に言い聞かせるたびどんどん痛みは重くなっていく。
この胸の痛みが取れる日は来るのだろうか。