1.居眠り
「くわぁ。」
思わず欠伸が出てしまった。
とても大きく口を開いて。
欠伸なんて1週間徹夜してもしたことがなかったのに。
とても、眠くてまぶたが落ちそう。
よく欠伸って人に移るって言うけれど。
それって本当だったのか、と初めて思った。
いつもいつも眠そうで。
授業中どころか、休み時間でさえ寝ていた。
その姿を見て、学校に何をしに来ているのか、と。
少し馬鹿にさえしていた。
すでに暗部で活躍している俺様が何でアカデミーで餓鬼と混ざって授業を受けなければならないのか。
そして火影の命令のもと、名家・旧家の子供の護衛のために2度も留年したのだ。
ストレスを感じない方がおかしい。
それに…
「何でおまえはそんなに出来が悪いんだ。」
俺が優秀だったら、困るのはあんたらの癖に。
「他の生徒の邪魔をするな!」
頼まれたってしねーよ。親や周りの大人に流されて、俺を疎む奴らなんか。
あぁ嫌だ。
いつもいつもそう思ってた。
アカデミーでバカ騒ぎをしたり、ドベを演じていた間もずっと。
自分で考えたキャラながら、いつも面倒くさくてたまらない。
いつも演じながら、こんなにまっすぐで人を疑わない奴なんていないといつも思う。
目立ちたがりなら前の席かな、と前に座っていたのだが。
今日はどうしても前に座ってバカ騒ぎをする気分に慣れなくて。
後ろに座ろうと、窓際から少し離れた一番後ろの席に座った。
机にうつぶせて、空をボート見ていると、突然視界がさえぎられた。
何だろう、そう思ってジーと見つめていると、ふいにこちらに振り向いて。
「何見てんだよ。」
不機嫌そうにそう言われ、またか、とそう思う。
その男はどかっとナルトの横の窓際の席に座り込んだ。
え?横に座るの?
「何だよ?ここは俺の特等席だからな。ゆずらねーぞ」
そんなこと聞いてないんですけど。
「いつもシカマルってその席に座ってるよね。」
シカマルの前の席へと、座った男がそう返した。
「ったくうるせーよ。チョウジ。」
この二人は確か、俺の護衛対象にもなっている奈良シカマルと秋道チョウジ。
そういえばいつもこの辺に座っていたかも。
じゃなくて、普通に俺に話しかけてくるから。
毒気を抜かれるというか、なんというか。
「初めて話すよね。僕チョウジっていうんだ!」
「お、おう。俺はうずまきナルトだってばよ。」
悪意があればそれはなんとなくわかるものだ。
しかしこの二人はとても自然体というか、そういう類のものを感じることが出来ない。
「いっつも前で騒いでるよね。今日はどうして後ろに座ってるの?」
「え~と…ちょっと眠くて。」
「そうなんだ。シカマルも授業中でも寝てるんだよ。」
「それ俺も知ってるってばよ!よく先生に注意されてるの見て。」
「あははは。」
「うるせぇっつーの。眠いんだから仕方ねーだろうが。」
仕方ない、と当然のことのように言い放つシカマル。
違うだろそれ、と突っ込みをいれ、二人は顔を見合わせて笑いあう。
こんなふうに普通にクラスメートと話せたのは初めてで。
明日になればどうなっているのかわからないけれど、少し嬉しかったのは事実。
「今日の宿題してきた?僕わからないところがあったんだよね。」
「え?そんなのあったってば?!俺忘れてたってばよ。」
当然のことながら、やってきていない。
そういう設定だから仕方がないのだが、簡単に解ける問題なだけに教えることが出来ないのが悔やまれる。
「俺もやってきてねーぜ。ってか、宿題って何すんだっけ?」
慌てもせず、宿題をやらないことをすでに前提にしているような言い方だ。
ある意味、潔いよいのかもしれないとシカマルという人間について見直し始めたナルトだった。
もちろん宿題はやってきた方がよいに決まっているのだが。
「仕方ないなぁ。昨日習ったことの応用問題のプリントもらったでしょ?」
「「いれたまんまだった(てば)」」
はもった二人は顔を突き合わして、苦笑いを浮かべた。
クラスメートと普通に接しているのが、なんだかくすぐったい。
ごそごそとプリントをバックの中から出して。
じっとそのプリントを見つめる。
「難しいってば。」
「簡単じゃねーか。」
先ほどとは違い、はもらなかった二人はもう一度目を合わせる。
二人とも表面上はドベ1.2を競うほどの落ちこぼれ。
ナルトが疑問を感じるのも無理はない。
「よかった!ナルトもシカマルに教えてもらいなよ。僕ここがわからないんだけど。」
しかし戸惑うナルトにチョウジは気にせず。
ここ、とわからない箇所をシカマルに見せて。
チョウジが示したその部分は…このプリントの中でいえば、難易度の高い問題で。
チョウジがわからないとシカマルにもらしたのも仕方がない。
しかしこのプリントを落ちこぼれが簡単、というには少し無理がある。
しかし「あぁここはこうして…それがひっかけなんだよ。」
と、ドベのナルトでも理解できそうなレベルでシカマルは回答を教えてくれた。
成績が悪くいつも寝ていて駄目なやつと思っていたのに。
認識が覆されて、ナルトは驚きで頭がいっぱいになる。
かろうじて、ドベの仮面をはすさないように踏みとどまったのはせめてものプライド。
「ここで間違えてたんだ!シカマルありがとう。」
「いいって。それより、ナルトは何か聞きたいことねーの?」
「え?お、俺にも教えてくれるの?」
「わからないところがないならいいけど。チョウジの写させてもらってもいいし。」
な、とチョウジの方へ相槌を促した。
シカマル自分で解けるでしょ!と言って、チョウジは写させようとはしなかったけど。
「あ、ありがとう。」
嬉しくて笑いたいのを抑えていると、ほほの部分が引きつって痛い。
こんなふうに普通の同級生として接してもらったのは初めてのことだから。
自然と、お礼の言葉が出た。
「じゃあ俺寝るからな。」
瞬時に寝る体制に入ったかと思うと、寝息が聞こえてきた。
「…すごいってばね。」
「だね。シカマルってどこでも寝れるんだよ。寝てるときのシカマルって本当に幸せそうだよね。シカマルが欠伸するの見てたら、僕も眠くなってくるんだよね。」
俺が言いたかったのってそこじゃないんだけど。
確かに…。
「あ、それわかるってば。シカマルが欠伸してるの見たとき、俺も欠伸が移っちゃったってば!」
「それわかるよ!なんだか、眠くなってきちゃった。」
「俺もだってば。」
「じゃあ居眠りでもする?」
「おう。」
「じゃあおやすみ。」
「…おやすみだってば。」
その後、授業中もずっと居眠りをしていた窓際三人組にイルカの雷が落ちたということは言うまでもない。
サスケ好きな人をは注意してください!
若干サスケに対し、ネガティブな表現があるかもしれません。
下の文を読んで不快な気分になるかもしれませんので、サスケ好きの人は読まれない方がよいかもしれません。
■ 片想い中の 20 のお題
05の続き
綱手を木の葉に連れ帰りシカマルたちと顔を会わせた後、面倒くさがる綱手をなだめすかしてナルトは木の葉の病院に連れて行った。
木の葉崩しやイタチの襲撃によって、重症のものや昏睡状態の忍びがまだ多くいたからだ。
綱手の医療忍術をもってすれば、大抵の怪我であれば完全に治すことが出来る。
意識不明で重症患者の筆頭に名を連ねていたカカシとサスケも同様に。
そして。
綱手の治療により意識を回復させ、二人は一命をとりとめた。
しかし……イタチに再び会ったことによってサスケの中にあった憎しみは誰にも止めることが出来ないほど大きなものに育っていた。
ごうごうと音をたて。
憎しみの火は大きく燃え上がり、誰であっても消すことは出来なかった。
「ナルトのおかげよ、本当にありがとう!」
「よかったってばね。サクラちゃん!」
「えぇ!一時はどうなることかと思ったけど、ナルトが綱手様を連れ帰ってきてくれたおかげよ!」
「まー俺にかかれば楽勝だってば!」
そう言葉を交わしたのはつい最近のこと。
綱手の治療のおかげで意識を取り戻したサスケを見て、サクラはよかった、と喜びの涙を流した。
しかし意識が戻ってもサスケの口はぎゅっと閉じて宙をじっと睨んだまま、何も話そうとしない。
その時のサスケの表情に、綱手は以前に感じたことのある危機感を覚えた。
そう、それはとても昔のこと。
大蛇丸が木の葉を抜ける少し前のことだった。
その時の大蛇丸もこんな、狂気と憎しみを灯した瞳をしていた。
大蛇丸とは少し違うけれど、この子もうちは一族の生き残りとして復讐を糧としていると聞く。
ナルト達のように親身に思ってくれる仲間がいるのだから、そんな心配をする必要はないはずだけど。
無性に胸がざわざわと騒いだ。
「なぁ、ナルト。あの子は大丈夫なのかい?」
綱手が火影に就任して数日後、ナルトは綱手に呼び出され、そう質問された。
「何が?あんたのおかげで元気になっただろうが?」
「そうじゃなくて、心がだよ。私の治療で体は治っただろうが、心は違う。かなり危なそうな目をしていたよ。」
そう言われ、ナルトは面倒くさそうにしながら、考え込みだした。
ナルトにとってあの子達は数少ない仲間のはずだ。
だから私も里に帰ってすぐに治療のために病院に向かったのだ。
ナルトのために。
ナルトは望んではないかもしれないかれど、この子のために何かをしてあげたいんだ。
この子に会ったことで、私は自分の無力感と罪の重さに気がつくことが出来たから。
里のものは未だその罪に気づくことはないけれど。
綱手が木の葉に残って三代目の手助けをしていれば…少しは違う未来になっていたかもしれない、という後悔を感じながら。
だからなのかもしれない、ナルトには信頼できる仲間を持ってほしいと願うのは。
しかし
「大丈夫じゃないかもね。あいつ自分が一番強いと思ってるし、兄貴との実力の差に愕然としたんじゃねぇかな。」
とナルトはあくまでも冷静で、その言い方には敵意さえ感じるものがある。
「あんた…そこまでわかってるなら、何とかしてあげたらいいじゃないの。」
「だって…あいつのこと、嫌いなんだよね。なんかすかしてて、不幸自慢してる感じで。」
「確かにあんたから見りゃそうかもしれないが、同じ班同士だろ?」
サスケへの敵意を感じ、綱手はもしかしてナルトはあまりいい感情を持っていないのかもしれないと思う。
「同じ班でもサスケとサクラは違う。最初はサクラもサスケのことばっかり気にして嫌な女だったけど、中忍試験からいい方向に変わってきた。でもサスケはいつまでたっても憎しみばかりだ…。ライバルとして突っかかるのも正直疲れるよ。」
「そうか…」
仕方がない、と綱手は思う。
ナルトだって木の葉のことを恨まなかったことなんてないだろう。
ナルト自身に責められるべき点なんてない。
それどころか、本来ならば九尾を封印してくれてありがとうと礼の一つでも言っていいくらいだ。
だから、いつもは生意気なくらい大人ぶったナルトも。
憎しみで雁字搦めに縛られているサスケを見ていると、自分が惨めだと思ってしまうのかもしれない。
憎しみを言葉にするどころか、強くなることさえ認められていない現在の状況を。
「確かにドベ演じながらサスケにつっかかるのは疲れるかもしれないねぇ。そういえば、木の葉に帰って来た時、目つきの悪い餓鬼となんか約束してたねぇ。あんたが誘うなんて珍しい感じがしたけど。あんたにしちゃ珍しく慌ててなかったかぃ?」
「へ?そんなわけないだろ?俺はいつも冷静だっつーの!」
さっきまで平静だったナルトのほほに赤みが差す。
それを見て、綱手は驚き、ナルトを面白そうに観察する。
旅先で会ってからずっとナルトを見てきたが、こんなに子どもらしいナルトを見たのは初めてだった。
シカマルとあったときもこんな風にナルトが動揺していたから、面白がって自来也と一緒になってアドバイスなんてしたのだけど。
「へぇ。そんなふうには見えないけどねぇ。」
綱手が面白がっている様子を見て、ナルトはヤバイ、と思った。
生まれてからずっと自分を偽ってきた。
演じるということに関しては自信を持っていたのに、シカマルのことが絡むと簡単に崩れてしまう。
「別に…表の俺だったら新技のことを自慢するだろうと思って誘っただけだ。」
「ふぅん。じゃあ螺旋丸見せたんだ?驚いただろうねぇ。」
「…あぁ。」
歯切れが悪そうなナルトに綱手ははて、と首をかしげた。
「驚いたにしては元気がないねぇ。」
「螺旋丸の威力を見せて、あいつも驚いた…ようには見えなかったけど、……俺の方が驚かされたっつーの!」
ナルトの驚かせたという発言に、綱手は興味をかきたてられる。
いつも生意気なことばかり言って、周りを振り回しているナルトが、と。
しかし綱手にはナルトが何に驚かされたのか、予想ができなかった。
「それは珍しいねぇ。いったい何が起こったんだい?」
興味津々、という感じの綱手にナルトはぐっと口をつぐむ。
綱手に知られれば、面倒ごとになることは免れない。
「……」
「ナルトったら!」
何度もしつこく質問してくる綱手に、ナルトはついに根負けし、事の顛末を話した。
「ったくしつけーな。話せばいいんだろ、話せば……あの日シカマルにあれ見せたんだけど…」
「うんうん。」
「一回見ただけでその構造見切られた。」
「へ?」
「だから見せただけで螺旋丸会得されたんだって!」
「はぁ!??なんだって!?あの術は確かに印もいらなくて単純な術だけど、そこらの中忍が見切れるようなレベルの術じゃないんだよ!」
「そんなこと言われなくたってわかってる…でも、チャクラが足りなかったとはいえ木枯らし程度だけど発生させたんだ。」
その時のことを思い出したのか、ナルトの眼差しに熱がこもる。
「でもあ、あんな餓鬼が見ただけでなんて、信じられないよ…」
綱手は予想の範疇を超えたナルトの話に動揺を隠せない。
カカシやサスケの持つ車輪眼ならば、可能かもしれない。
しかし奈良一族にはそんな目もなければ、秘術も伝わっていないはず。
何をどうやって理解しえたのだろうか。
「俺だって未だに信じられないけど…目の前で見たんだ。」
そう呟くナルトの姿を見て、シカマルもナルトと同じなのでは…と綱手は思った。
ナルトも綱手と同等かそれ以上の力を持っており、現在暗部で働いていると聞く。
一人そんな存在がいれば、もう一人いてもおかしくない。
今感じた驚きは、ナルトの話を聞いた時の感覚と似ているような気がする。
実力を隠しているところとか、ナルトも暗部に属しているのだからありえない話ではない。
「それならあんたと同じように暗部に属しているとか…じゃないのかい?」
「そんなわけない!…はずだ。それにあいつはアカデミー時代も俺とドベ争いするくらいの成績だった。わざと手を抜いているのは気づいていたけど…」
「でも…見て螺旋丸の構造を理解できるなんて、それ相当の実力を持っていなきゃ出来ないんじゃないかい?」
綱手にそう諭され、ナルトは黙りこくる。
シカマルの知らなかった、気づけなかった一面を知って、ズーンと気分が重くなった。
確かに悪戯を一緒に計画した時とか、妙に鋭い意見を言うやつだな感じたことはあった。
自称いけてない系だと言っているが、影で人気があることも知っている。
いつからそんな実力を持っていたのだろうか、全くといっていいほど想像がつかない。
「それにしても、木の葉の忍びのレベルは落ちたのかと思ったけど、こんな餓鬼がいたなんてねぇ。木の葉も捨てたもんじゃないねぇ。」
しみじみと、綱手はこれからの木の葉のことを思い、そうつぶやいた。
確かに、そうなのだろう。
これがシカマルでなければ俺もその意見に何の異論もなく同意していただろう。
これは頼もしい味方が出来た、と。
シカマルでなかったら。
「今回の中忍試験で中忍に昇格したんだろ?やっぱり実力のある奴は頭角を現すんだねぇ。三代目も見る目があるじゃないか。」
「…」
「なんだい?元気がないねぇ。」
「うるせーつうの。用がないなら任務あるから行くぞ。」
背を向けて、ナルトは部屋から出ようとした。
どことなく暗い面持ちで。
「ちょ、ちょっと待ちなって!その任務のことで話したいことがあったから呼んだんだよ!」
綱手は去ろうとしたナルトを慌てて引き止めた。
「あんたが暗部としてどうするのかを今後どうするのかを聞いておきたくてね。」
「なんだ、そんなことかよ。今までと同じでいいよ。俺もまだ下忍のままだしね。」
「わかった。それと…さっきの話の小僧は暗部になる気はないのねぇ?」
ナルトは少し考え、静かに呟いた。
「あいつは…こんな血なまぐさい世界なんて似合わないよ。それにあいつに出世しようとか、そういう欲はないんだ。」
「それは残念だねぇ。そんなに才能があれば、すぐに実力なんてつくと思ったんだけど。」
「まぁ。表で温かく見守ってやってよ。」
綱手には背を向けているナルトの表情を読み取ることは出来なかった。
しかしナルトの雰囲気が和らいだことが感じ取れた。
「あぁ、わかったよ。」
ナルトにとってシカマルは特別な存在らしいということが綱手にも伝わってきた。
そして…ナルトのいうように実力があるのならば、それ相応の仕事を与えてやらなければとならないと、綱手は火影として考えた。
裏でなく、表で…。
「じゃあ、任務に行ってくる。」
「あぁ。気をつけてな。」
綱手はふっと息を吐き、椅子にバタッと座り込む。
目の前のデスクに並べられている溜まった書類の束を見て、ウンザリしながら。
窓の方を眺めると、すでに日も落ち暗くなっている。
綱手は木の葉の将来を思いながら、火影として何が出来るかを考える。
考えて、まず最初にしなければならないのはナルトを表で活躍させてやることだと。
その時のことを考えると年甲斐もなく、胸の奥が暑くなる。
そのためにナルトの仲間をもっと増やさなくては、と考え…先日治療した少年のことを思い出す。
大蛇丸と同じような目をしていたあのうちはの少年のことを。
後日サクラの思いも虚しく、イタチに再び会って燃え上がったサスケの憎しみは消えることはなく。
綱手の心配していたとおり、サスケは大蛇丸の手下に連れられ木の葉の里を抜けることとなった。
玄関は靴を置く場所とは別に、少し高さのある床が部屋の中に続いていた。
座るのにちょうどいいその高さにナルトは腰をかけて、シカマルが出てくるのを待つ。
先ほどのシカマルの父との掛け合いを思い出しながら。
あんなに暖かく知らない人に迎え入れてもらったことなんてなかったから。
シカマルの父親が俺に対して、自然に接してくれただけでも奇跡なのに。
すまなかったと謝罪までしてくれて。
あぁ、この人にシカマルは育てられたんだな、と感じた。
俺はこの腹に封印された九尾のおかげで、里中から憎まれて育ったから。
幼い頃に傍にいた人たちも皆俺を汚らしいもののようにさげずみ、扱われるのが日常で。
大人は皆、本当に信じることなんて出来ないと…思っていた。
その考えを今も変えることはできない。
俺を守ってくれた今は亡き三代目火影でさえ、必要とあらば俺を切り捨てただろうから。
もしその決断をじっちゃんがしていたとしても、俺は恨まなかった。それは火影としての責任の上に成り立つ判断なのだから。
じっちゃんは俺に様々な知識、強さ、そして感情を教えてくれた。
そしてじっちゃんなりに俺の居場所を作ってくれた。
…でももし、俺の本当の力を知ったらどう思われるのだろうか?
やはり、危険視されるのだろうか。
そんな未来は容易に想像できて、心の中に黒いものが沸き起こる。
未来について考えている時にふと頭に思いついた。知られなければいいのだ、と。
誰も知られなければ、俺の日常は壊されることはないはずだ。
ここまで考えて、あっとうつむいていた頭を上に上げる。
生まれた時から、虐げられてきた生育環境からか。
ナルトは常に何か危険があるかもしれないということを頭に入れて行動をするようにしていたので、ついつい悪い方向ばかりに向かってしまう。
そしてその悪い方向に考えたことが、大概当たってしまうので、余計に疑い深くなったのであるが。
ぼんやりと部屋の方を見つめながら、そんなことを考えていると、上の方で大きな音がした。
ナルトは上で動く気配を察知し、思わず立ち上がった。
ドタドタとどこからか音がして。
そんなに急がなくてもいいのに。
そう思いながらも、なるとの口元はゆるんでしまう。
シカマルらしくなくて…それが俺のせいだったら、嬉しい、と。
「すまん、待たせた。」
そう言いながら、玄関の方にシカマルは早足で駆け寄ってきた。
ナルトはシカマルの声を聞いて、遅い、と文句の一つでも言ってやろうと、シカマルの方に向いた。
見た瞬間、息を吸うのを忘れるくらい。
自分でも自覚できるくらい目を見開いて、じっと見つめていた。
いつもは上で一つ結びにされている頭も、今日は下に降ろされていて。
服装もいつもと違い、全身黒で統一されていてかっこいい。
髪も瞳も黒で暗くなってもおかしくないのに、影を操る家系だからか黒をまとうその姿はとてもよく似合っている。
今まで何で気づかなかったんだろう、ってくらい、男前で。
サスケをかっこいいって、女の子は叫んでいたことに疑問が浮かぶくらい、決まってる。
誰かの容姿をほめるなんて初めてだったけど。
言葉にならない言葉がのどから出てくるのを押さえるだけで精一杯だった。
ほほが赤く染まってないかがとても心配で。
誰か鏡を貸してほしいくらい。
「おはよう。待たせたな。」
「うぅん。朝早くにごめんってば。寝てるかもなぁってちょっと思ったけど、やっぱ寝太郎だってばよ。」
ジーと見とれそうになりながらも、何とか視線をずらす。
俺はどんなに動揺することがあっても、演技だけは完璧にしなければならない。
シカマルにだって、それを悟られてはならないのに。
「情けねーけどその通りだな。起こされねーと寝たまんまだ。」
「あははは!シカマルっぽいってば。」
「売るせー。じゃぁ修行の成果を見せてもらいますか。」
「おう!びびるなってばよ?」
ナルトは見惚れそうになるのを抑え、シカマルから必死に目を離そうとした。
でも頭の中で先ほど瞳に焼きついたシカマルがチラチラと浮かび。
普通にいつもと違う格好の事を聞くのって、普通だよなとナルトは思い直す。
振り払うようにシカマルに話しかけようと見たら
「今日いつもと服装違うから大人っぽいな。似合ってるじゃん。」
カァァァと。
絶対に顔が赤くなってる!
くそっ!!感情がコントロールできないなんて初めてだ。
ほほがほてるのが押さえられない。
仕方がないから、シカマルの顔と逆の方向を向いて、崩れそうになった顔を隠す。
そしてこんなことくらいで動揺するな!と己自身を叱咤して。
「やっぱりぃ~?俺もそう思うってばよ。」
軽口をたたきながらも、シカマルのほうを見ることが出来ない。
ぜってぇ、こんな顔見せられない。
それに俺がそれ言いたいと思ってたのに…と落ち込みつつ。
そして動揺しているナルトの横では、不思議そうにシカマルがナルトを見つめていた。
俺、そんな変なこといったかな、と思いながら。
「こんにーちは!シカマル君いますか~?」
なんて不安をかき消すように大声で挨拶した。
他の大人と同じように軽蔑された目で見られるかもしれないけど。
あいつを育てた人だから、隠れたりしたくなかった。
正面から堂々と。
例え怒鳴られても、あいつのことに関してうそはつきたくない。
なんて馬鹿なこと言ってるのはわかってるけど。
「あら?シカマルのお友達?ごめんなさいね?今シカマル寝てるのよ。今起こしてくるから、少し待ってって。」
部屋の奥から出てきたのは綺麗な女の人。
普通の対応をされて、ナルトは戸惑って言葉を失った。
こんな普通の会話をしてくれる大人なんていなかったから。
そう言い終ったら、女の人は2階へ続く階段を登っていく。
それと交互に奥のほうから、昨日見かけた父親らしき人がのそのそと頭をかきながら出てきた。
「お!昨日の餓鬼じゃねーか。今日はどうしたんだ?」
「し、シカマルを誘いにきたんだってば。」
「ほ~そうか。そういや話してたなぁ。あいつはこの時間ならいつも寝てるぞ。」
シカマルの部屋があるであろう方向を見上げながら、苦笑する親父。
「あいつは俺に似ず、寝るのが超好きだからなぁ。」
「らしいってば。学校でもよく寝てたし。」
ぷっ。
二人で笑ってしまった。
笑いながらも。
頭の中が疑問でいっぱいになる。
「…どうして俺のこと何にも言わないんだってば?」
「…俺はお前が悪いなんて思っちゃいねぇ。そんなこと思う奴はただの八つ当たりしてるだけだ。それをわかっていて助けることをしない俺は他の奴等と同罪だけどな。」
すまない、と頭を下げ、シカクは不甲斐無さそうに顔をゆがめた。
「そうだってばね。でもそれを自覚するのはとても難しいことだってば。」
「あぁそうだ。だがそれは弱い奴のすることだ。それに俺はお前を差別しなかった息子のことを誇らしく思ってるぞ。」
そう言いながら、シカクは笑った。
とてもいい笑顔で。満足そうに。
先ほどの苦笑とは違い、その笑顔は俺の特別な人と同じ笑顔だったけど。
どこか違う印象を受ける笑顔だった。
「それに…いやこれは今言うべきじゃないかもなぁ。」
頭をポンポンとたたきながら、シカマルの親父は立ち上がった。
「じゃぁそろそろ来ると思うから。またな!今度遊びに来いよ。」
「うん。ありがとう。また来るってば!」
奥の方に歩いていく後姿を見ながら、先ほどのシカクの笑顔を思い出す。
シカマルの笑顔とどう違うのかなと考えて。
シカマルの笑顔を思い浮かべると…胸がぎゅっと苦しくなる。
胸がいっぱいになって、あったかい気持ちになる。
でもその笑顔が他の誰かに向けられている場面を想像してしまうと、胸に何かが突き刺さったかのように痛みを伴ってうずく。まるで胸を打ちぬかれたかのように。
だから、ほんの少しだけ…ありえないことだけど、他の誰よりも長く俺にその笑顔を向けてほしい。
そう願ってしまう、少しの間だけでも。
「すまん、待たせた。」
笑顔を向けて歩いてくる君の姿が、とても嬉しい。
やっぱり短文。
せっかく面白いお題なのに、いかされていないような気がするのは私だけでしょうか
片思い中に20のお題
03.君に振り回される自分がいる
あれから。
会うだけで、心が揺れて、頭が真っ白になって。
動揺なんてしている自分が信じられない。
以前と自分が変わったなんて気づきたくないのに。
会えば、鼓動がドキドキと。大きな音を立てて、壊れそうなくらい。
綱手探しの旅から帰ってきて、突然アイツと出くわしてしまった時も。
突然だったからか、驚きに悲鳴を上げることもできなくて。ただ、心臓だけが死にそうなほどドキドキと脈打っていた。
昔から自分を偽ってきたから、表情に出るのを抑えるのは容易なことではあったけど。
俺の正体を知る両隣にいた綱手と自来也は気づいたかもしれない。
おまけにシカマルの父親もいて、じろりと見られやっぱり憎まれてるのかなと…そう考えると悲しくなった。
シカマルの父親だけあって、そっくりだから。
ただ、まとう雰囲気はかなり違って、シカマルにある甘さが消えて、鋭くなったような。
シカマルが大人になったらこうなるのかなと、少し見とれてしまったのは俺だけの秘密。
こんな気持ちは初めてで。
うれしいような、恥ずかしいような。
怖いような、戸惑う気持ち。
「よう。ナルトじゃねーか。おまえこんなとこでどうしたんだよ?」
「あ!シカマルだってば。俺ってば、五代目様を探す旅から帰ってきたんだってば!新技も身に着けてすげ~んだってばよ!」
「へぇ~じゃあ後で見せてくれよ?」
ドキ!!
「い、いいってばよ!じゃあ後で誘いに行くってば!」
「おう、じゃあな。」
手を振りながら、シカマルは父親と一緒に去っていく。
俺は手を振りながら、どうしようかと悩んでいた。
どうしよう、どうしよう、どうしよう。
誘ってしまった!シカマルの行動で一喜一憂してしまう。
ほんとうにヤバイ!汗をだらだらかきながら、その場で固まっていると。
ポンポン。
肩をたたかれた。俺に気配を感じさせないとは、
「お~い?ナルトくん。何をそんなに動揺してるのかな?」
ビク、と震えそうになる方を何とか抑え、平静を装って。
「何でもないっすよ?何でも。」
あの後、シカマルとの関係を二人はしつこく追及してきたけど、俺は何とかごまかした、つもり。
そんなはずかしーこと言えねーつーの。
あの二人は俺の正体を受け入れてくれて、感謝してくれた人達。
火影のじいちゃんが死んで、俺の正体を知る数少ない味方。
シカマルとは別の意味で、大切な人たち。本人にそんなこと絶対に言わないけれど。
じっちゃんが死んだ今、とても感謝している。
時期火影が綱手でなければ、俺はどう処遇されていたかわからないのだから。
しかし。その二人は確実に面白がっているのは事実で。
何かに感づいたのか、俺にいろいろなアドバイスを無理やりくれて。
何で気づかれたのか、まったくわからない。
でも大きなお世話だけど、ちょっと感謝。
どうしていいかわからなかったのでその忠告に感謝しつつ、思い出す。
その1.いつもと違う服装でおしゃれをする。
その2.目潤ませてをじっと見つめる。
その3.さりげなくほめる。
その4.自然に体と接触する。
など、1は服装を変えるだけなので簡単だけど、他のは出来るかどうか…
とくに4なんて絶対出来ない。
恥ずかしすぎる。
なんて考えながら。
さっさと誘いに行こうと思っても、体が動かない。
思い通りに動かないなんて。
でも君に振り回される自分が少し好きかも…なんて思ってしまって。
もう末期症状かも。
とりあえずいつもオレンジのハデハデジャージなので、今日は大人しめでちょっと柄の入っている青いシャツに黒い短パンで決めてみた。
手首には付けたこともない、ブレスレット。
誰かのためにおしゃれをしている自分自身を恥ずかしいと感じているのは気のせい…ではないと思う。
とりあえず君の家に誘いに行こう