1.居眠り
「くわぁ。」
思わず欠伸が出てしまった。
とても大きく口を開いて。
欠伸なんて1週間徹夜してもしたことがなかったのに。
とても、眠くてまぶたが落ちそう。
よく欠伸って人に移るって言うけれど。
それって本当だったのか、と初めて思った。
いつもいつも眠そうで。
授業中どころか、休み時間でさえ寝ていた。
その姿を見て、学校に何をしに来ているのか、と。
少し馬鹿にさえしていた。
すでに暗部で活躍している俺様が何でアカデミーで餓鬼と混ざって授業を受けなければならないのか。
そして火影の命令のもと、名家・旧家の子供の護衛のために2度も留年したのだ。
ストレスを感じない方がおかしい。
それに…
「何でおまえはそんなに出来が悪いんだ。」
俺が優秀だったら、困るのはあんたらの癖に。
「他の生徒の邪魔をするな!」
頼まれたってしねーよ。親や周りの大人に流されて、俺を疎む奴らなんか。
あぁ嫌だ。
いつもいつもそう思ってた。
アカデミーでバカ騒ぎをしたり、ドベを演じていた間もずっと。
自分で考えたキャラながら、いつも面倒くさくてたまらない。
いつも演じながら、こんなにまっすぐで人を疑わない奴なんていないといつも思う。
目立ちたがりなら前の席かな、と前に座っていたのだが。
今日はどうしても前に座ってバカ騒ぎをする気分に慣れなくて。
後ろに座ろうと、窓際から少し離れた一番後ろの席に座った。
机にうつぶせて、空をボート見ていると、突然視界がさえぎられた。
何だろう、そう思ってジーと見つめていると、ふいにこちらに振り向いて。
「何見てんだよ。」
不機嫌そうにそう言われ、またか、とそう思う。
その男はどかっとナルトの横の窓際の席に座り込んだ。
え?横に座るの?
「何だよ?ここは俺の特等席だからな。ゆずらねーぞ」
そんなこと聞いてないんですけど。
「いつもシカマルってその席に座ってるよね。」
シカマルの前の席へと、座った男がそう返した。
「ったくうるせーよ。チョウジ。」
この二人は確か、俺の護衛対象にもなっている奈良シカマルと秋道チョウジ。
そういえばいつもこの辺に座っていたかも。
じゃなくて、普通に俺に話しかけてくるから。
毒気を抜かれるというか、なんというか。
「初めて話すよね。僕チョウジっていうんだ!」
「お、おう。俺はうずまきナルトだってばよ。」
悪意があればそれはなんとなくわかるものだ。
しかしこの二人はとても自然体というか、そういう類のものを感じることが出来ない。
「いっつも前で騒いでるよね。今日はどうして後ろに座ってるの?」
「え~と…ちょっと眠くて。」
「そうなんだ。シカマルも授業中でも寝てるんだよ。」
「それ俺も知ってるってばよ!よく先生に注意されてるの見て。」
「あははは。」
「うるせぇっつーの。眠いんだから仕方ねーだろうが。」
仕方ない、と当然のことのように言い放つシカマル。
違うだろそれ、と突っ込みをいれ、二人は顔を見合わせて笑いあう。
こんなふうに普通にクラスメートと話せたのは初めてで。
明日になればどうなっているのかわからないけれど、少し嬉しかったのは事実。
「今日の宿題してきた?僕わからないところがあったんだよね。」
「え?そんなのあったってば?!俺忘れてたってばよ。」
当然のことながら、やってきていない。
そういう設定だから仕方がないのだが、簡単に解ける問題なだけに教えることが出来ないのが悔やまれる。
「俺もやってきてねーぜ。ってか、宿題って何すんだっけ?」
慌てもせず、宿題をやらないことをすでに前提にしているような言い方だ。
ある意味、潔いよいのかもしれないとシカマルという人間について見直し始めたナルトだった。
もちろん宿題はやってきた方がよいに決まっているのだが。
「仕方ないなぁ。昨日習ったことの応用問題のプリントもらったでしょ?」
「「いれたまんまだった(てば)」」
はもった二人は顔を突き合わして、苦笑いを浮かべた。
クラスメートと普通に接しているのが、なんだかくすぐったい。
ごそごそとプリントをバックの中から出して。
じっとそのプリントを見つめる。
「難しいってば。」
「簡単じゃねーか。」
先ほどとは違い、はもらなかった二人はもう一度目を合わせる。
二人とも表面上はドベ1.2を競うほどの落ちこぼれ。
ナルトが疑問を感じるのも無理はない。
「よかった!ナルトもシカマルに教えてもらいなよ。僕ここがわからないんだけど。」
しかし戸惑うナルトにチョウジは気にせず。
ここ、とわからない箇所をシカマルに見せて。
チョウジが示したその部分は…このプリントの中でいえば、難易度の高い問題で。
チョウジがわからないとシカマルにもらしたのも仕方がない。
しかしこのプリントを落ちこぼれが簡単、というには少し無理がある。
しかし「あぁここはこうして…それがひっかけなんだよ。」
と、ドベのナルトでも理解できそうなレベルでシカマルは回答を教えてくれた。
成績が悪くいつも寝ていて駄目なやつと思っていたのに。
認識が覆されて、ナルトは驚きで頭がいっぱいになる。
かろうじて、ドベの仮面をはすさないように踏みとどまったのはせめてものプライド。
「ここで間違えてたんだ!シカマルありがとう。」
「いいって。それより、ナルトは何か聞きたいことねーの?」
「え?お、俺にも教えてくれるの?」
「わからないところがないならいいけど。チョウジの写させてもらってもいいし。」
な、とチョウジの方へ相槌を促した。
シカマル自分で解けるでしょ!と言って、チョウジは写させようとはしなかったけど。
「あ、ありがとう。」
嬉しくて笑いたいのを抑えていると、ほほの部分が引きつって痛い。
こんなふうに普通の同級生として接してもらったのは初めてのことだから。
自然と、お礼の言葉が出た。
「じゃあ俺寝るからな。」
瞬時に寝る体制に入ったかと思うと、寝息が聞こえてきた。
「…すごいってばね。」
「だね。シカマルってどこでも寝れるんだよ。寝てるときのシカマルって本当に幸せそうだよね。シカマルが欠伸するの見てたら、僕も眠くなってくるんだよね。」
俺が言いたかったのってそこじゃないんだけど。
確かに…。
「あ、それわかるってば。シカマルが欠伸してるの見たとき、俺も欠伸が移っちゃったってば!」
「それわかるよ!なんだか、眠くなってきちゃった。」
「俺もだってば。」
「じゃあ居眠りでもする?」
「おう。」
「じゃあおやすみ。」
「…おやすみだってば。」
その後、授業中もずっと居眠りをしていた窓際三人組にイルカの雷が落ちたということは言うまでもない。