いつものごとく、これだけでは終わりません。
短編にまとめたいのに、まとまらなかった
この話は銀時の調査で山崎とあやめが会うシーンを見て、同じ忍びなんだから、話も合うのでは!?と思い、書いてみました。
あやめっていつもハイなテンションだけど、ちょっとかわいそうですよね。銀さんには相手にされていないし。
ということで、あやめが銀時に告白しに行くのに、山崎が巻き込まれる…というような話です。
最後まで書けるのかな、と疑問の浮かびそうになる文章力ですが、がんばって生きたいと思います。
で、いつものごとく土山になると思います。
タイトル、迷いに迷って、変で長くなりました
時として優柔不断とはとても辛いものである。
「銀さん!待ってってばぁ~!」
それはいつものように副長の用事を頼まれて、歌舞伎町を歩いていた日のことだった。
ふわふわと雲が気持ちよさそうに流れていたので、今日はいいことありそうだ、とそんな予感がしていた。
副長にマヨネーズを買ってこい、とスーパーに行く途中だったのだが、急ぐ気分でなく。
ゆっくりと散歩のように歩いていた。
このことを土方が知ったら、烈火の如く怒るだろうなと思いながら…
その時背後でドカァァと激しい音と共に、横を瞬時に何者かが走り去った気配を感じた。
あっという間の出来事だったが、走り去ったものは確かに銀時だった。
辺りを見回してもそれらしい姿は見えなかったが、監察である山崎だからこそ一瞬でその気配を察知することが出来たのだ。
しかしその瞬間に山崎がかすかに捉えることができたのは恐怖におびえる銀時の瞳だけだった。
あの銀時がおびえるなんて…何だろう、と後ろを振り向くと…女の人が大の字に寝そべっていた。
転んだのだろうか…しかしあの音はそんな小さな音ではなかったのだが…
山崎は疑問に思いながらも、大の字で動かないので心配になり、傍に駆け寄って話しかけた。
この時の親切心を山崎はこの後、後悔することになった。
「わかる~?銀さんったら恥ずかしがりやさんだから私のこと避けてるんだけど…本当は戸惑ってるのよ。初めて本気で人を愛してしまったから…」
「はい、そうですね。」
「そうなのよ~!でも繊細で優しい銀さんはそれを認めるのが怖いの…だから私を避けて逃げているの」
うっとりと遠くを見つめながら延々と話しつづけているのはさっちゃんこと、猿飛あやめ。
俺が声をかけてから、2時間ずっと話しっぱなしだ。
いくら俺でも、ずっと旦那とののろけを聞かされるときつい。
もとお庭番で、ある事件をきっかけに銀時と深い仲になってしまったらしい。(どこまでが本当のことかわからないが。)
初めて会ったのは、副長に銀時の調査を依頼された時だ。
第一印象も少し、いやかなり変わった人だった。何しろうちの局長とストーカー談義できるくらいなのだから。
猿飛さんの話から推測するに…旦那は付き合うのが面倒くさくて逃げた…ということだろう。
あのおびえた顔はこの女性に惚れている…とはとても思えない。
いったい何をしたのだろうか。
人の話を聞かないことといい、ストーカー度合いといい、何で俺の周りにいる人たちはこういう変わった人が多いのだろうか。
新八の家で遭遇した時といい、局長と話が合いそうだ。
しかし紹介して、変人仲間になられるのも困る。一応新撰組の頭だし…
「そういえばさっき旦那が走っていたんですけど、何でなんですか?」
「あら?よく聞いてくれたわね!私がホテルに入りましょうっていったら恥ずかしがっちゃって…まぁその他にもいろいろ話してたんだけど。」
「…いろいろってなんですか?」
「そんなこと銀さんにしか話せるわけないじゃない!も~えっちねぇ。」
なるほど、痛い女に迫られて、あげくに逃げた…ということか。
そこに声をかけた俺が巻き込まれた、と。
なんて運が悪いんだ。
さっきまであんなに気分がよかったのに。
これもすべて逃げた旦那のせいだ!
と銀時に頭の中で文句を言いながら、あやめの話に適当に相槌を打っていると
「あなたもそう思うでしょ?」
「は、はい。」
有無を言わさない雰囲気に圧され、思わずうなずいてしまう。
「よね!じゃあ私と銀さんをくっつけるお手伝いをして頂戴?」
「はいはい、ってえぇ!!?」
「じゃあおねがいよぉ!」
「そ、そんな…困りますよ~!」
本当に困る!俺だっていろいろと仕事があるのだから。
今日だって久々の非番でのんびり散歩をしているところだったのに、あっという間二時間が過ぎてしまった。「助かったわ!じゃあこれから私と銀さんをラブラブにする打ち合わせをしにうちにいらっしゃい!」
「いや、あの…俺ちょっと用が…」
「ここからすぐだから!じゃあ行きましょう!」
「だから……」
いや、あの、とあやめの提案を断ろうとする山崎の首根っこをあやめにつかまれて山崎はずるずると引きづられていった。
あやめは初めて家に人を連れて行くので、ルンルン気分だった。
ただでさえ思い込みが激しいのに浮かれたあやめの耳には、山崎の言葉は届かなかった。
というか、初めから人の話を聞くような性格ではなかったのだが…
連れて来られたマンションは最初にあやめが倒れていた場所から近かった。
というか、万事屋から5分くらいの場所で。
こんなに近いなら、さぞかし旦那に会いにいけるだろうってくらい。
まるで、うちの局長のようだ…
それにしても…歌舞伎町にしては珍しく高級そうなマンションだった。
やはり女の子だからだろうか、オートロックでセキュリティも厳しそうだ
「私の部屋は10階だから、ちゃんと着いてきてね。」
「…はーい。」
エレベーターに二人で乗り込み、あやめが10のボタンを押した。
キーン、とエレベーターが止まり、ドアが開く。
「うわぁ。」
あやめに連れて来られた部屋は一人暮らしには広すぎるほど、広かった。
女の子らしい部屋ではなく、生活感のない、淋しい部屋。
部屋の中央には大きなソファーとテーブルが置かれていた。
何もかも綺麗に整頓されているが、物があまりにもなさ過ぎる。
…俺の部屋みたいだ。
「そこのソファに座って頂戴?ちょっとお茶を入れてくるから。」
と言い、キッチンの方へ姿を消した。
言われたままにソファに座り、山崎は部屋をきょろきょろと見回していた。
山崎にはプライベートで女性の部屋に来た経験があまりなかった。
新撰組に真の髄まで身を置いた監察の山崎には女性と親しくなることはできなくて。
山崎の持つ情報は新撰組にとって命取りとなるものばかりだから、知らぬものに気を許すことは出来ない。
それは始末屋をしているあやめにもいえることで、少し似ているかもしれない、と少し思ってしまう。
でもストーカーをしていたあやめの姿を思い出し、似ているのはやっぱやだ、と浮かんだ考えを思わず拒否してしまった。
「はい。」
「あ、ありがとうございます。」
テーブルに出されたのはかわいらしいカップのティセットとおいしそうなクッキー。
心遣いが女の子らしくて、それが少し嬉しい。
「じゃあ、いただきまーす。」
ハーブのいいにおいが口の中に広がって、体の疲れがとれるような気がした。。
おいし~、とつい言ってしまい、あやめにくすりと笑われる。
「もう何ですか~?笑うなんてひどいですよ」
「ごめんなさいね。あんまりおいしそうに食べてたから…つい、ね。」
くすくすと笑いながら、あやめもおいしそうに紅茶を飲む。
「で、さっきの話なんだけど…どうすればいいかしら?」
「そ、そーですね。やっぱりきちんと気持ちを伝えると言うことが大切だと思うんですけど」
「私もそれは大切だと思うんだけど…大切な時に銀さんったらどっかいっちゃうのよね~」
たぶん、そういう話を聞きたくないからでは…とは言えない弱気な山崎だった。。
「そういえば、二人はどこで知り合われたんですか?」
いたって普通の質問だが、予想通り普通の答えが帰ってくることはなく。
「私が屋根から落ちて銀さんに会ったのが運命の出会いだったわ。その後同棲…のような生活を送ったわ。あの時はとても幸せだったんだけど。」
あやめは出会いから始まり、一緒に戦いにいったことなどを多少妄想と希望が入り混じりながら話し続けた。
「で、私は銀さんのことを好きになったのよ。」
「…はぁ、そうなんですか。」
話が終わったのは、それから1時間後。
話を聞きながら、山崎は思った。
俺がマヨを買って帰れないのはあやめさんのせいであって俺のせいではないということ。
(俺は非番で副長の命令を聞かなくてもいいはずなのだけど。)
そしてこれでは俺はしばらく帰れそうにないということ。
そして…何を副長に言い訳しても絶対怒られるであろうということだった。
「私としては…既成事実でも作った方が早いんじゃないかしらと思ってるんだけど、どうかしら?銀さんの周りにはライバルがたくさんいるのよね。こういうことは早く行動しなきゃいけないわよね?。」
「…とりあえずその同棲生活の時には何もなかったんですか?」
「それなのよ!私としたことがあの時は本気じゃなかったから。あの時なら銀さん結婚してくれるって言ったのに私ってバカよね。」
ほんとうにばか、と肩を落とし、山崎に同意を求める。
山崎は山崎で旦那がそんなことを言うなんて信じられない、と少し失礼なことを考えていた。
「でも一度そういう気になったんなら、簡単かもしれませんよ?」
「そうよね!あなたいいこと言うじゃない!」
あやめは上機嫌で山崎のカップにお茶を注いた。
「はは、まぁ。」
「そういえば、あなた。以前どこかでお会いしなかったかしら。」
「え?そうですか?俺は覚えていませんが…(ってか、こんな濃い人会ってたら絶対忘れないだろ!)どこかですれ違ったのかも知れませんね。」
首をひねりながら、未だ考え中のあやめ。何かが頭の中で引っかかって思い出せないらしい。
「まぁいいわ。それで明日また、銀さんに会いに行こうと思ってるんだけど。一緒に来てくれないかしら。」
それって、女友達が告白についていくみたいな感じでは…。
俺の存在っていったい…とも考えないではないが、女の子に頭を下げられるとどうしても断りきれない。
それが山崎の優しさなのか優柔不断なのかはわからないが、この性格のおかげで様々な困難に巻き込まれているのは否定できな。
「…仕方ないですね。わかりました。ついていくだけならいいですよ。」
大の字になっていたあやめを放っておけなかったのは俺だし、これも何かの縁かもしれない。
と、断りきれなかった自分に対して言い訳しながら、山崎はしぶしぶといった感じで了承した。
「ほんとに!?ありがとう!!」
ぐいっと山崎の手を両手で握り締め、本当に嬉しそうにあやめは礼の言葉を何度も繰り返した。
そんなに礼をいうあやめの笑顔を見て、仕方無しにではあったが山崎は引き受けてよかったと思った。
「私…学生時代もそんな友達とかいなかったの。今も職業上親しい人なんてあまりいないわ。」
淋しそうに笑うあやめに山崎は自分との類似点を見出す。
山崎もそう、思ったことがあったから。
だから、あやめのことを人事だとは思えなくて。
「そうなんですか…俺でよかったら付き合いますから。」
「ありがとう。そういってくれると嬉しいわ。」
その場を、しみじみとした雰囲気が包んだ。
こんなふうに女の人と仕事以外で話したのって初めてかもしれない。
山崎は新撰組で、あやめは銀時に好意を持っているという立場で、いつ敵同士になるかもしれないけれど。
こういう関係も悪くないかも、と心が暖かくなるように感じた。
「ありがとう!銀さんが逃げ出さないようにしばっておいておいてね!」
「えぇ!!?一緒に行くだけじゃないんですか!?」
「何言ってるのよ?だから一緒に来てもらうんじゃない?」
明日が楽しみだわ、となにやら妄想しだしたあやめに山崎はやや引き気味だ。
時計を見ると、すでに7時をさしていた。
もうこんな時間に…と驚く。
「すみません。今日は遅いので、帰りますね。」
「え?もうそんな時間かしら?仕方ないわね。明日は10時にここに来て頂戴。」
夕飯を一緒に食べない、という言葉を飲み込んで、あやめは仕方ないとばかりに立ち上がった。
ここまで付き合ってもらったのも無理やりのような感じだから。
しぶしぶだったとしても、ここまで付き合って聞いてくれた人は初めて。
すみません、と頭を下げる山崎を玄関で見送った。
「また明日ね。忘れたらひどいわよ。」
「わかってますよ。また明日。じゃあおやすみなさい。」
手を振りながら、山崎はドアを開けて外に出る。
ドアが閉められた後、あやめは鍵をカチャリと閉めた。
ふーとため息を吐き、部屋の方へと戻りシーンとした部屋を見渡した。
「なんだか寂しいわね。」
一人なんてなれているはずなのに、自分は一人だということに大きな孤独感を感じた。
あんなふうに人とのんびりとお茶をすることなんて、あまりないことだったからだろうか。
部屋がとても広くなったような気がした。
「引き止められなくてよかった~!」
エレベーターで下におりながら、山崎は思わず言葉を漏らした。
あやめと一緒にお茶をしたということが嫌ということではない。
楽しかった、そう思ったのはあやめだけでなく山崎も同じだった。
早く帰りたいのは、ただ単純に、副長の雷が怖いだけだ。
非番の日でも、副長はなぜか俺に用を頼む。
それは信頼されているのか、便利に使われているのかはわからないけど。
隊士の中で特別な感じがして、少し嬉しかった。
今日もいつものようにマヨネーズとタバコを頼まれていたのに。
こんなに遅くなってしまった。
チン、と音と同時にエレベーターが止まり、ドアが開く。
急いで山崎はエレベーターを飛び出した。
向かうはスーパーだ。
とりあえず頼まれたものを買って帰らなければ、土方の怒りを増幅させるだけだから。
「え~と、これと、あと…それだけかな?」
かごいっぱいにマヨネーズとタバコを入れ、空いているレジに並んだ。
早く、早く、と気持ちばかりが急いてしまう。
レジを済ませて、山崎は屯所の方へと走り出した。
ここから屯序まで普通に歩けば15分、山崎が走れば5分ほどで着く。
どれだけ怒られるか想像もつかないけど。
怒鳴られる、いや殴られる覚悟をして、山崎は屯所への道を急いだ。
「遅い!!」
明るいうちに、と使いに出した山崎が帰って来ず、土方はいらいらしながら部屋で待っていた。
マヨネーズとタバコ買うだけで何時間かかっているんだろうか、と隊士が今の土方を見れば、震えだすだろうというくらい額にしわが何十にも刻まれ、目がつりあがっていた。
誰が見ても、怖すぎる、と感じるだろう。
「ったく、せっかくの非番だから、と早めに使いに出したのによ。あいつは何してんだ!」
非番だということを知っているのなら、頼まなければいいのに…と山崎がいればそう突っ込んだだろう。
こんなに機嫌の悪い土方に突っ込みを入れられるのか、と問われれば自殺行為だともいえるだろうが。
「帰ってきたら、半殺しじゃすまさねーぞ。」
山崎のせいで仕事に集中できない、と土方は頭をかきむしる。
心の中では怒りだけではないということがわかっていた。
帰ってこない山崎のことが心配なのだ。
買い物を頼んで30分後、土方は少しだけ後悔していた。山崎が非番だということを思い出してしまったのだ。
山崎はいつもバトミントンをしていたり、と何かと仕事中に余計なことをしているイメージが強い。
しかしそれは山崎の一面であり、普段は仕事に対し一生懸命で想像以上の成果を挙げていた。
サボるイメージもわざと作っているような感じがしないでもない。それを見つけたらぼこぼこに殴ってはいるが。
だから悪いと思いつつも、つい非番でも頼んでしまうのだ。それが簡単な用事であっても。
そして2時間後、土方は片っ端から山崎を見ていないか、と屯序内にいたもの全てに聞いて回っていた。
「何?山崎がいない?仕事にでもでたんじゃないのかぁ?それよりお妙さんが!!」
「山崎をいじめたんですかぃ?仕方ないですねぃ。このへタレが。」
「山崎監察ですか?見てないですねー。」
などなど、むかつくことを言われたりもしたが、山崎の姿を見たものはいなかった。
心配が焦りへと変わる。
何か事件に巻き込まれたのではないか。
誰かに連れ去られたのではないか、と。
山崎は新撰組の中でも副長助勤としてその筋では名が売れていたから。
新撰組には鼻の聞く優秀な戌がいると。
その噂が流れる中で、敵に紛れ込み情報を得て生きて帰ってくる山崎がすごいのだが。
だから、山崎のみに何かが起きたのではないかと。
しかし副長である俺がここを離れるわけにはいかず。
もんもんと考えながら、今に至る。
その間、心配をさせる山崎に対し土方は段々と怒りを感じるようになっていた。
心配をさせる山崎という存在に。
そして山崎がかかわると感情がひどく乱れてしまう自分に対して。
この感情は何なのだろうか。
「くそっっ!!」
ライターの火をつけようとして、タバコが切れていたことを思い出す。
ガンっとライターを畳に投げつける。
俺らしくない、物に当たるなんて。
だけど感情が制御できなかった。
「っすみません!!!遅くなりました!」
「………」
戸を開けて、即座に山崎は土下座して許しを請う。
突然姿を現した山崎に驚き、土方は一瞬言葉を失った。
土方を気にすることなく、山崎はひたすら謝り続ける。
「本当に遅くなって申し訳ありませんでした!!!!」
頼まれていた品はこちらに、と買った物を入れたビニール袋を土方の前に差し出した。
「……お前、覚悟は出来ているんだろうな。」
地の底から響くような低い土方の声。
意識が戻ったのだろう。畳に額をこすり付けているだろう山崎の頭をこれでもかというくらい睨みつけた。
山崎は頭上から強い視線を感じつつも、土方が怖くて頭を上げることが出来なかった。
「は。はぃぃ!」
山崎は返事をすることしかできなかった。しなければ土方の機嫌が更に悪くなることはわかりきっていたから。
「で、何か弁解はないのか?」
「え、えーとですね。」
スーパーに行く途中にあやめに話しかけたことを話す。
駄目だ、これでは自業自得だといわれてしまう。
あやめに無理やり連れて行かれたことを話す。
それで新撰組の一員か!と更に怒らせてしまうかも。
あやめが人のいうことを聞かない…
駄目だ、うまい言い訳が思いつかない。
というか、何を言っても殴られそうだ。あれ痛いんだよね。やだなぁ。
ダラダラダラと汗を流しながら、アーとかウーとか奇声を発している山崎に土方は更に怒りを感じてしまう。
何を隠しているのだ。
頭の中がそれだけを支配し、怒りが収まらない。
土下座をしていた山崎をひっくり返し、腹に勢いをつけてのっかかる。
「グェ!!」
蛙の潰れたような声がしたような気もするが、いつものことなので土方は気にすることなく。
「何を隠してるんだ?」
「な、何も…」
全部話したらもっと怒られるんだろうな、その考えが山崎に真実を告げることを渋らせていた。
「ふぅん。」
嘘吐け、と土方は心の中でつぶやいた。
そして妙に甘ったるいにおいに気がつく。
なんだこの匂いは?
しばらく山崎の上で考えていたが、ある考えへと至る。
女の香水の匂いではないのかと。
山崎が女と?それを想像した瞬間、体が燃えるように熱くなった。
この匂いは間違いなく香水だろう。
その事実を否定したがる自分がいることに土方は驚いた。
まるで嫉妬のようだと。
冗談ではない、なぜ山崎にそんな感情を持たなければならないのだ。
「ふ、副長?」
すっと土方は山崎の上から立ち上がり、定位置へと戻った。
殴りもしない土方に山崎は驚き、そして恐怖を感じる。
何かもっと恐ろしいことを考えているのではないか、と。
「あ、あの…」
「もういいから下がれ。」
取り付く島もないくらい冷たく言われ、山崎は言葉を失う。
土方は山崎を無視するかのように、書類の整理を始めだした。
まるで邪魔だとでも言うかのように。
「あ…じゃあ失礼しますね。」
おやすみなさい、と再び頭を下げ、山崎はその場を後にした。
「どうしよう。」
いつものように殴ってくれた方がよかった。
あんなふうに怒る土方を見たことがなかったから、どうすればよいのかわからない。
山崎を拒否するかのような、そんな雰囲気。
「あの時、声をかけていなければ。」
後悔しても仕方がないのに。
顔も見たくないとでもいうかのような土方の態度に、どうしようもなく胸が痛む。
「明日は…見つからないように行かなきゃ」
本当は碇に油を注ぐようなこと、したくはない。
でも仕事でもないのに、約束を破りたくなくて。
何度もため息を繰り返しながらも、明日のことを考える。
ばれたら、もっと嫌われるんだろうな。
いっその事怒ってくれれば、その方がすっきりするのに。
屯所の廊下から空を見上げると、星がきれいで。
今日のように明日も晴れそうだ、と。
あやめとの約束に一抹の不安を感じながらも。
誰もが悲しまず、皆が幸せであることを山崎は願う。
そして副長の機嫌が直りますように、と。
流れ、一瞬で消えたあの星に。