銀土?←山+沖…みたいな感じです。
切な系を目指しましたあえなく挫折…
紅く染まる、その一瞬に
やっと自分の命を懸けることのできる人ができたから。
ただ傍にいさせてください、それだけで。
俺は幸せを感じることができるんだ。
だから、どうか。
俺は一番でなくてもいい。
あなたの視線の端にも映らなくていいから。
あなたの役に立つことが、俺の生きている証。
町が、人が、紅く染まる。
そんな秋の夕暮れ時。
昔から逢魔が刻と言われるように、その夕暮れ時はひどく人を惑わす。
誰が言ったのだろうか、確かに目の前に赤く染まった空はとても美しくて、不安にさせられる。昔の人はよくいったものだ。
町の巡回中、俺はそれを見た。
新撰組副長と万事屋銀時のラブシーン。
目に入った瞬間、体中から溢れ出しそうになった殺気を必死で抑える。
体の中をぐるぐるとどす黒いものが渦巻まくを感じながら。
あぁ、あの人は選んだのだ。自分ではない人を。
それは俺にとって死刑宣告のようなものだけど、俺のあり方が変わるわけで無く。
あの人から離れることなんてできないのだ。
俺の気持ちなんて知らないあの人の前で、俺はこれからもへらへらと笑うのであろう。
だってあの人が俺を必要としてなくても、俺にはあの人のそばにいることが絶対だから。
「山崎じゃねえかぃ。こんなところで立ち止まって何してんですかぃ。」
後ろから方に腕を回され、はっと意識が戻った。
あれからどれくらい時間がたっただろう。
背後から抱きついてきたのはたぶん、沖田さん。
全く気づかなかったなんて、監察である俺にとって笑い話では済まされないことだけど。
この人は図太そうに見えて、意外に鋭い人だから。
気を引き締めて応対しないと、心の動揺が悟られてしまうかもしれない。
「あ、沖田さんですか?何でもないですよ…ただ、あまりに夕日がきれいだったから。」
夕暮れの日を浴びながら、紅く染まった空を見つめた。
泣き出しそうな自分を叱咤しながら。
紅い空を眺めていると、先ほどの情景が何度も目に浮かぶ。
一瞬の出来事だったけど、記憶するには十分な衝撃で。
空を眺める山崎を沖田はじっと見つめていた。
沖田は無表情か何かをたくらんでいるかのような笑いしかしないから。
何を考えているのかを察することはとても難しい。
それでも今日の沖田の顔にはかすかだが、不安に思っているような感じがした。
「そうですかぃ。でももう遅くなりやした。帰りやしょう。」
沖田はそういいながら、山崎の手をとり屯所へ歩き出した。
ズンズンズンと。
あ、といきなり引っ張られ、ボーとしていた山崎は驚いたようだ。
沖田に引きずられるような形になり、思わず駆け足になる。
沖田は何かを振り切るように、山崎に見向きをすることなく屯序に急ぐ。
「ちょ、ちょっと沖田さん。待ってくださいよ。」
ぐぃ、と沖田の肩をつかむが、止まることは無い。
この突進力は万事屋にいる女の子みたいだ。
沖田さんとしょっちゅう喧嘩ばっかりしてるけど、案外似たもの同士かもしれない。
「なんでぃ。」
返事はしてくれたが、沖田の前進は止まらない。
「何って、足速すぎますよー。ちょっとは俺のこと気にしてください。」
ぴたっと止まり沖田は俺のほうに体を向けた。
手はつないだままだけど。
とても真剣な目で、見据えられて。
普段の沖田さんより男前に見え、あぁもう大人になったんだな、と少し親のような気持ちになっていた。
「ザキィ~俺はあんたが幸せにしてやしたら、何も言わずにおこうと思っておりやした。デモね、そんな泣きそうな目で無理に笑う姿なんて見たくありやせん。」
「そ、そんなことないですよ!俺は新撰組に入れるだけで幸せですから。」
沖田に言われ、内心ドキッとしていた。
胸のうちを言い当てられた気がして、自分では考えまいとしていたけど、そんなに泣きそうだったのかなぁ。
でも同時に嬉しさも感じていた。
傍若無人といわれる沖田が自分の心配をしてくれているのだ。
さっきまで下降していた気分が少しだけ上昇していく。
「ありがとうございます。ちょっと元気が出来てました。」
「そうですかぃ。そりゃようござんした。」
沖田は優しく微笑む。
その笑顔は今の俺には優しすぎて、辛すぎて。
気を抜けば、涙がとめどなく溢れてしまいそう。
それでもここで泣くわけにはいかない。
いくら俺にだってプライドがある。
「お礼に隊長に俺特製のおやつを作って差し上げますね。」
「本当ですかぃ。ザキのおやつは絶品ですからねぃ。帰るのが楽しみでさぁ。」
二人でふふ、と笑いながら、帰途に着く。
それぞれの思いのうちは様々だけど、全てわかりあえるはずはなく。
また山崎の見た光景が真実だったのか、それもわからない。
ただ、沖田がいて、山崎を励ましてくれたということ。
それだけが真実。
「ザキの作ったものは本当においしいねぇ。」
「ふふ。ありがとうございます。」
隊長は俺の作ったクッキーをおいしそうに食べていた。
無表情の他は何かをたくらんでいるような笑い顔しかしない隊長が非常に喜んでいるようなので、とても嬉しいと思った。
「もっと食べてくださいね。」
「まかせてくだせぇ。俺一人で食いやさぁ。」